2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K05496
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
峰本 紳一郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90323493)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 原子・分子物理 / 光電子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、真空紫外(EUV)領域のコヒーレント光源である高次高調波発生(HHG)と自由電子レーザー(FEL)をプローブ光とし、紫外・可視・近赤外のレーザー光で励起した試料分子の時間発展を光電子分光法によって追跡するための方法論を確立することを目的としている。 初年度は、EUV-FELパルスを光源とする光電子分光法の開発に専念して研究を進めた。まず、EUV-FELパルスと超短パルスTi:sapphireレーザー光との同期実験を行った。ArやXeなどの原子を試料とし、生成する光電子の速度分布イメージを測定したところ、FELとTi:sapphireそれぞれのパルスの光子が関与するイオン化過程(超閾イオン化過程)に相当するピークの観測に成功した。超域イオン化ピークの観測は両パルスが時間的・空間的に十分重なっていることを示している。今後、この手法を応用して、分子の時間分解光電子分光を行う予定である。特に、単純な2原子分子である一臭化ヨウ素分子に着目し、紫外の超短パルスによる励起後、時々刻々解離していく分子の光電子スペクトルを測定する。すなわち、平衡核間距離とは大きく異なる核間距離を持つ分子の電子状態を調べ、ポテンシャル曲面を実験的に得ることを目指す。 一方、HHGによる光電子分光法についても、光電子分光法の開発に備えて光源開発を進めており、現在までに、光子エネルギー約30 eVのアト秒パルス列の発生に成功した。このパルス列を用いた時間分解分光法の開発を現在進めている。EUV-FELでは不得手な30 eVの光子エネルギー持つパルスにより、精度の高い光電子スペクトルを得ることを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では、真空紫外(EUV)領域のコヒーレント光源である高次高調波発生(HHG)と自由電子レーザー(FEL)をプローブ光とし、可視・近赤外のレーザー光で励起した試料分子の時間発展を光電子分光法によって追跡するための方法論を確立することを目的としている。 このうち、EUV領域におけるFELパルスの提供が2016年度に始まったことを受け、初年度は、EUV-FELパルスを光源とする光電子分光法の開発に専念して研究を進めた。時間分解測定を行うには、ポンプ光とプローブ光との時間的・空間的な重なりを確保することが研究の肝となる。そのため、EUV-FELパルスと超短パルスTi:sapphireレーザー光との同期実験を行った。ArやXeなどの原子を試料として用い、生成する光電子の速度分布のイメージを観測したところ、FELとTi:sapphireパルスが時間的に重なったときに、それぞれのパルスの光子が同時に関与するイオン化過程(超閾イオン化過程)に相当するピークの観測に成功した。超閾イオン化過程は、FELパルスによりイオン化が起こった瞬間にTi:sapphireパルスの光子が吸収または放出される過程であり、超閾イオン化ピークの観測は両パルスが時間的・空間的に十分重なっていることを示している。また、Ti:sapphireパルスの強度を変化させながらイメージを観測したところ、超閾イオン化に関与するTi:sapphireパルスの光子の数ごとに角度分布にも変化が現れており、現在、理論計算との比較検討を進めている。 一方、HHGによる光電子分光法についても、光電子分光法の開発に備えて光源開発を進めており、現在までに、光子エネルギー約30 eVのアト秒パルス列の発生に成功した。このパルス列を用いた時間分解分光法の開発に着手している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに開発したEUV-FELパルス用の光電子分光装置を用い、今後、可視・紫外レーザーパルスで励起した試料分子の時間分解測定を進める。 時間分解光電子分光の具体例としてまず、単純な2原子分子である一臭化ヨウ素を取り上げる。一臭化ヨウ素は波長260 nm付近に解離性励起状態を持ち、数ps程度の緩和時間で解離することが知られている。EUV-FELはユーザー提供開始の初期段階であり、レーザー光の波長に制限がある中、Ti:sapphireレーザーの3倍波をポンプパルスとして使用できる一臭化ヨウ素は最初のターゲットとして最適な試料分子である。ポンプ光とプローブ光の遅延時間を変えながら光電子スペクトルを測定し、時々刻々解離していく一臭化ヨウ素の電子状態の変化を観測する。これは、各時刻における(平衡核間距離とは大きく異なった)核間距離を持つ分子の電子状態を調べていることに相当する。すなわち、ポテンシャル曲線を実験的に決定することになる。理論計算から得られるポテンシャル曲面と比較し、理論計算自体の妥当性や、電子相関の影響などポテンシャルを決める要因を調べる。さらに、EUV-FELにおいて使用可能になり次第、ポンプ光の波長を変えて、核の運動と電子状態との相関を調べる研究を進める。 一方、高次高調波を用いた時間分解測定でも、時間的・空間的な重なりを確保することが実験を行う上で欠かせない。FEL実験で得た経験を基に、HHGパルスとTi:sapphireレーザー光との超閾イオン化の観測を行う。その上で、FELでは効率が低い30 eV程度の光子エネルギーのパルスをプローブ光とし、単純な2原子分子から多原子分子の時間分解分光の開発を進めていく。
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Causes of Carryover |
励起状態の生成に最適な波長は分子ごとに異なるため、励起レーザーの取り回し用に多様な光学部品を用いることを構想していたが、残念ながら当該年度において自由電子レーザー施設で使用可能なレーザーの波長に制限があり標準的な波長(800 nm)用の光学素子のみで十分であった。そのため、当該年度は多くの光学部品の使用を見送った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
時間分解ポンプ-プローブ分光では、分子ごとに異なる波長用の光学部品を用意する必要がある。自由電子レーザー施設で使用可能なレーザーに依存するが、ビームタイムごとに適宜必要な光学部品を購入する。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] Structure determination of molecules in an alignment laser field by femtosecond photoelectron diffraction using an X-ray free-electron laser2016
Author(s)
Shinichirou Minemoto, Takahiro Teramoto, Hiroshi Akagi, Takashi Fujikawa, Takuya Majima, Kyo Nakajima, Kaori Niki, Shigeki Owada, Hirofumi Sakai, Tadashi Togashi, Kensuke Tono, Shota Tsuru, Ken Wada, Makina Yabashi, Shintaro Yoshida, and Akira Yagishita
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 6
Pages: 38654
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] Femtosecond structure determination of aligned molecules in an intense laser field studied by X-ray photoelectron diffraction with an XFEL2016
Author(s)
S. Minemoto, T. Teramoto, H. Akagi, T. Fujikawa, T. Majima, K. Nakajima, K. Ogawa, H. Sakai, T. Togashi, K. Tono, S. Tsuru, S. Yoshida, K. Wada, M. Yabashi, and A. Yagishita,
Organizer
39th International Conference on Vacuum Ultraviolet and X-ray Physics
Place of Presentation
Zuerich, Switzerland
Year and Date
2016-07-06 – 2016-07-06
Int'l Joint Research
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[Presentation] Femtosecond structure determination of molecules in an alignment laser by photoelectron diffraction with an XFEL2016
Author(s)
S. Minemoto, T. Teramoto, H. Akagi, T. Fujikawa, T. Majima, K. Nakajima, K. Ogawa, H. Sakai, T. Togashi, K. Tono, S. Tsuru, S. Yoshida, K. Wada, M. Yabashi, and A. Yagishita,
Organizer
The 16th International Conference on X-Ray Lasers
Place of Presentation
奈良春日野国際フォーラム(奈良県奈良市)
Year and Date
2016-05-24 – 2016-05-24
Int'l Joint Research
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