2016 Fiscal Year Research-status Report
生体膜のコレステロール含量の違いを機能から考察する
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16K05509
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
高橋 浩 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (80236314)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | コレステロール / リン脂質 / シトクロムP450 / 細胞膜 / 薬物代謝 / ホスファチジルコリン / ホスファチジルエタノールアミン |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの薬剤は、小胞体膜にある膜タンパク質シトクロムP450(CYP)で代謝される。これまでの研究から、CYP代謝薬剤は、直接、CYPの活性部位に結合するのではなく、小胞体膜のリン脂質二重層膜内部に侵入した後、脂質膜の疎水内部に入口が開いているチャンネルを通って、薬剤は活性部位に到達すると考えられてきている。このプロセスに関連しての疑問は、CYPの存在する小胞体膜を薬剤はどうやって認識し、CYPが存在しない他の脂質膜には侵入しないのか、という点である。 小胞体膜は、他の細胞内小器官の膜と比較すると、コレステロール含量が10%程度と比較的少ない。形質膜などは30%程度である。本研究課題では、コレステロール濃度に、注目して、コレステロールの役割に焦点を当てている。細胞そのものはあまりにも複雑であるために、モデル系で研究を進めてきた。 (1)モデル膜としてのリン脂質ホスファチジルコリン(PC)とコレステロールから成る二成分系に対して、CYP基質薬剤であるクロルゾキサゾン(CZX)の結合が、どうコレステロール濃度に依存するかを調べた。その結果、CZXの結合は、コレステロール10mol%の時に最大となり、それ以上では、逆に、CZXの結合を阻害することを見出した。この研究成果を論文として発表した。 (2)赤血球膜の研究から、細胞膜や細胞内小器官の膜の脂質分布は非対称的、つまり、内層と外層で脂質組成が異なると推定されている。このことを考慮すると、形質膜の内層に多く存在するホスファチジルエタノールアミン(PE)に対しても、PCと同様なことを調べる必要がある。コレステロールを含まないPE一成分系膜にCZXが結合するかを調べることから始めた。結果、ゲル相状態にあるPE膜にCZXは、ほとんど結合しないが、液晶状態にあるPE膜には、CZXが結合することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
究極的な研究の最終目標は、薬剤代謝の観点から、実際の細胞膜や細胞内小器官の膜において、コレステロールがどのような機能を担っているかを明らかにすることである。本研究課題では、最終目標に向けての第一ステップとして、単純なモデル系の実験から問題にアプローチしていく方法を取っている。 その中でもさらに最初の一歩として行った、哺乳動物の生体膜において最も多く含まれるリン脂質ホスファチジルコリン(PC)を用いたモデル系の実験で、薬剤クロルゾキサゾン(CZX)の結合がコレステロール濃度に依存することを見出すことができた。この成果を論文として発表できた。ここで重要なのは、コレステロールの効果が、二相的で、高濃度では結合を阻害し、一方、低濃度では結合を促進するように働くことが明らかになったことである。さらに、興味深いことに、実験した範囲では、最も結合を促進したコレステロール濃度は、10mol%で、小胞体膜のコレステロール含量に比較的近く、高濃度の方は、形質膜などのコレステロール含量に近い。これより、それぞれの膜のコレストロール含量の違いが、薬剤代謝を効率良く進めるのに貢献していると示唆される。意図したとおりの成果が得られたと判断している。 しかしながら、実際の生体膜は多種多様な脂質成分から構成されているため、ホスファチジルコリン(PC)のみからなるモデル系の結果だけから結論する訳にはいかない。そこで、まず、生体内で2番目に含有量が多いホスファチジルエタノールアミン(PE)を用いて、実験を進めた。PCと異なり、PEでは基礎データが不足しており、コレステロールの効果を調べる前に、CZXのPE単独系への結合を調べることから始める必要があった。それに取り組んだ。この成果は、国内学会で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
モデル系であるホスファチジルコリン(PC)膜への薬剤クロルゾキサゾン(CZX)の結合が、コレステロール濃度に二相的に依存することを見出したが、結合量に関しては、相対的にしか決定することができていない。定量的に、結合量の絶対値を測定する実験を計画している。具体的な方法としては、透析と水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定法による実験を考えている。また、シトクロムP450(CYP)基質薬剤として、これまで筋弛緩剤のクロルゾキサゾンのみを用いてきたが、喘息の治療薬であるテオフィリンも加えて研究を進める方向である。 ホスファチジルエタノールアミン(PE)膜に関しては、単独系での基礎データは取得できたので、今後、コレステロールを加えた系で実験を進める。 CYPには酸化代謝する薬剤の種類によって異なる10種以上の分子種が存在することが知られている。最近の分子動力学的計算の研究結果から、これらの異なるCYP分子種では、膜内で薬剤を取り込むチャンネルの入り口の存在位置が異なっており、さらに、その位置は、基質薬剤がリン脂質膜の疎水部分において最も安定に存在する位置に対応しているとの提案がなされている。このことも踏まえ、CYP基質薬剤のリン脂質膜中での存在位置の特定に関しても研究を進める予定でいる。X線回折強度データから電子密度分布を再構成することから薬剤位置を決定する方向を、まず、試みる。
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Research Products
(4 results)