2016 Fiscal Year Research-status Report
ガラス転移における結晶的中距離構造の発達とその役割
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16K05510
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 美加 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (00610867)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ガラス転移 / 液体 / 中距離構造 / 液体・液体転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
水は通常の冷却方法でガラス状態を実現することは不可能とされているが、塩添加や圧力印可によりガラス化する。このことは、塩や圧力によって変化する液体の中距離構造が、ガラス転移の起源に対して重要な役割を担うことを示している。また、単成分の液体が2種類の構造を取り得ることを示す液体・液体転移においても、局所安定構造などの液体の中距離構造が重要な役割を示すと考えられる。本研究の目的は、こうした液体の中距離構造が、ガラス転移や液体の挙動に果たす役割を明らかにすることである。 分子性液体の亜リン酸トリフェニルは、ガラス転移温度近くの過冷却状態において、新しいガラス相が出現することが知られており、液体・液体転移との関連が指摘されていたが、決定的な証拠がなく長年論争が続いていた。この新しいガラス相はナノメートルオーダーの微結晶を含むため、もとの液体に戻すために温度を上げる際、結晶成長を免れず、いわゆる逆転移、すなわち、第二のガラス相からもとの液体相へ、結晶状態を経ずに直接戻る過程を観測することは極めて困難であった。本研究では、従来より約4桁速い高速冷却・昇温が可能な超高速DSC(示唆走査熱量測定)を用いることにより結晶化の問題を克服し、逆転移過程の観測に成功した。また、液体にしか存在しないガラス転移現象の観測を通し、もとの液体相と第二のガラス相が共存し、2つの液体間で互いに移り変わる様子を詳細にとらえることに成功し、この現象が一次相転移であることを証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子性液体の亜リン酸トリフェニルにおける液体・液体転移の存在可否については、長年論争が続いてきたが、本研究により、液体・液体転移の存在を実験的に証明することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
非平衡状態であるガラス状態において、系がより安定な状態へと変化するエイジング過程について、熱測定で観測されるキネティクスの普遍性を検討し、ガラス転移温度以下での系の時間スケールについて考察する。また、エイジング過程では系のエンタルピーが小さくなることから、熱力学的にはより結晶に近い状態へ変化すると予想できる。そこで、液体の中距離秩序の発達との関連に着目した実験を行う。
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Causes of Carryover |
熱測定による研究を優先したため、原子間力顕微鏡を用いた実験に関する支出が当初の予想より少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
原子間力顕微鏡を用いた実験を行うためのカンチレバー等で支出するほか、国際会議での成果発表に使用する予定である。
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Research Products
(4 results)