2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K05511
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 聡 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (20456180)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 多体量子動力学 / 半古典力学 / 分子動力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度において申請者は、量子波動関数Action Decomposed Function(ADF)の分子動力学計算への適用を念頭に置き、主にエネルギー量子化の精密化、量子化機構の解明に取り組んだ。従来のWKBレベルの半古典的手法において一般的に見られる、プランク定数が大きい領域において生じる厳密な量子力学的結果との間の差異と、その改善法を詳細に調べた。量子波束が長時間の時間発展後に正確に自身の形状を回復することがわかっているポテンシャル系を対象に、量子波束と特定の古典軌道集合の時間発展の比較から、古典軌道集合によって運ばれる情報、つまり古典作用と軌道間の幾何学的形状変化を反映する位相が果たす役割を、部分的に明らかにした。
その過程において、第2量子化記法で記述される系への半古典量子化手法の適用可能性について調べ、数値計算により、それが有効に適用できることを確認した(論文投稿準備中)。具体的には、申請者が以前に確立した半古典エネルギー量子化手法の、Bose-Hubbard模型と呼ばれる系への適用を通して、厳密な量子力学的対角化から導かれるエネルギー固有値を再現するエネルギー値が、系パラメータの特定の範囲で再現され得ること、そしてカオスのエネルギー量子化が可能であることを明らかにした。対象とした系は、本来そのダイナミクスの追跡を目的としている分子系とは異なるものの、この結果は我々が立脚している理論形式の、幅広い量子多体系への拡張が有効であることを示すものである。Bose-Hubbard系は、比較的単純な形のハミルトニアンによって記述される一方で、精密な実験的実現が可能になっており、そのダイナミクスは豊富な物理を持ち、多くの波及効果が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定よりも、各論的な議論と数値的な検証に時間を要したために、分子動力学計算への適用という点においては、やや遅れている。特に、大型計算機を用いることを視野に入れた大規模分子系の量子ダイナミクスへの展開は、まだ本格的に着手できていない。しかしながら、1次元および少数次元における理論の精密化が本研究におけるボトルネックであることは当初から想定しており、それが確立され数値的検証によってその適用限界を確認できれば、大規模系への拡張にすぐに着手することが可能であることに変わりはない。
また、当初予期していなかったことだが、光格子中の低温原子系のような第2量子化記法で記述される系の、我々の手法を用いた記述の可能性が示唆された。実験的パラメータを実時間において変化させることによって形状を自由に変化させることができる、制御の自由度が大きい光格子中の低温原子系のダイナミクスを追跡することは、量子相転移のダイナミクスや、量子計算機の実現可能性の議論へと拡張することが期待でき、その波及効果は計り知れない。ADF理論の物性物理学への適用可能性を示唆するものであり、分子系の記述だけでなくより一般的な量子多体系の取り扱いを可能にする。
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Strategy for Future Research Activity |
分子動力学の量子化に関しては、理論の構築と数値計算による検証を同時進行で行うことが可能であるので、現象を適切に記述する形式を作りながら、研究計画のとおり実在系への適用に向けた洗練化を引き続き進めていく予定である。
また当初の研究計画にも記したように、動的基底系手法の開発を行う。ADFは原理的に、任意次元のダイナミクスへの適用が可能である。付加的な行列計算やポテンシャルHessian計算を要求されることなく、古典軌道間相互の幾何学的関係のみで量子位相を取り込むことができる。しかしながら、一般的な量子波束伝播手法と同様、自由度の増大に伴う数値計算コストのスケーリングの問題は、避けることができない。長時間発展に際して、波束成分が激しく分岐合流する束縛状態系のダイナミクスを追跡するための、柔軟な動的基底手法を開発する。具体的には、ガウス型波動関数に非対称性を入れることによって、より正確な量子波束の再現を目指す。
並行して、第2量子化ハミルトニアンで記述される系に対しても継続して研究を推進するつもりである。適用可能性の検証を終え、量子波動関数の動力学の追跡、特にパラメータが時間変化する場合のダイナミクスにおける変化と、それによって起こり得る現象の予測へと進む。
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Causes of Carryover |
少数次元系における波束動力学理論の数値的検証は、手元の計算機端末ならびに既存の計算機環境で実行することが可能であった。そのため、当初予定していた科学技術計算用計算機の購入を見合わせ、平成29年度により高性能の計算機を購入しようと判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の残余分と合わせて、高性能の科学技術計算用計算機を購入する。それは本年度に実行を予定しているより規模の大きい数値計算の実行計画と合致するものである。
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