2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K05511
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 聡 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (20456180)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 化学反応動力学 / 量子波束動力学 / 分子動力学 / 半古典力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き,分子動力学の量子化に関する研究を継続して行った.具体的には,古典力学の法則に従って運動する粒子の集団が,量子波束のダイナミクスをどのように近似的に再現しうるかに関して,両者の比較が容易であり,かつ量子力学のどのテキストにおいても現れる基本的なポテンシャルを対象として,形状が固定される場合と変化を許される場合の両者において,数値計算によって詳細な比較を行った.大規模系への数値的応用を視野に入れ,できるだけ少数の古典軌道集合で波束ダイナミクスを再現するための知見を得た.
また一方で,配位結合に基づく分子の自己集合過程に関する研究を行った.この研究では,化学マスター方程式を出発点とする確率的アルゴリズムを用いて化学反応の時間発展を追跡する.第一段階として,目的生成物から基質へと自己集合過程を遡ることによって,過渡的に存在することが化学的に妥当と考えられる中間体を拾い出し,それらを接続する最小化学反応ネットワークを構築し,類似反応毎に速度定数を定義することによって,実験結果への最良フィットを導く速度定数探索を行った.それらに基づく各分子種の分子数の詳細な時間発展から,実験手法から得ることができない詳細な反応経路の追跡を可能にした.対象とする化学反応,反応の追跡や結果の解析のために適用する手法などが,本研究課題とは大きく異なるものの,この研究から得られる分子の自己集合反応の選択性に関する知見は,中長期的な視点において本課題に全て応用が可能であると考える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究課題の当初の目標である分子動力学の量子化の実装および実在分子系のダイナミクスへの応用は,まだ実現できていない.粒子集合の古典的な運動から得られる情報が,どのように量子位相へと寄与するかを,明らかにできていない状況にある.
一方で,当初は予定していなかった方向での進捗がなされた.化学マスター方程式に基づく自己集合反応系の追跡は,いくつかの配位自己集合の詳細を明らかにし,以後も継続的にさまざまな自己集合系へと適用可能な見通しが立っている.
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Strategy for Future Research Activity |
量子化機構の解明に関しては,引き続き研究を進める.ただし量子波束動力学理論を適用する対象物は,当初予定していたよりもスケールの小さい分子系,モデル系での検証へと変更する必要がある.
自己集合の反応過程の追跡において得られる知見は,当初の予定よりも時間を要すると予想されるものの,特に複雑な化学反応ネットワークにおいて自己集合の方向性を決定付ける因子を解明する段階で,本研究課題の遂行においてその成果を参照・活用することが可能である.これらについても引き続き研究を進めていく.
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Causes of Carryover |
数値解析を現有の計算機資源のみで遂行することができ,またデータ解析に多くの時間を要したため,当初予定していたよりも予算の使用が少額に抑えられた.一年間の期間延長の申請をお認めいただいたため,最終年度に研究打合せや業績発表のための旅費,データの保管,論文出版費等に有意義に使用させていただく予定である.
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Research Products
(5 results)