2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K05514
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山口 毅 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (80345917)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 構造緩和 / 高粘性液体 / 粘弾性 / デカップリング / 中間散乱関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
代表的な過冷却液体であるグリセリンおよびオルトターフェニルについて、種々の温度で粘性緩和スペクトルを測定し、中性子スピンエコー(NSE)法によって測定された、構造因子の主ピークにおける既報の中性子中間散乱関数との比較を行った。比較には、研究代表者によって開発された、モード結合理論(MCT)に基づく手法を用いた。測定したすべての温度において、粘弾性緩和スペクトルは主ピークにおける中間散乱関数で説明することが可能であり、これらの高粘性液体の粘度は主ピークにおける構造緩和で決定されていることが明らかとなった。 -40℃まで冷却可能な循環恒温槽を導入し、代表者らがこれまでに粘度と構造緩和時間の間にデカップリングが存在することを見出しているLiPF6/プロピレンカーボネート(PC)溶液について、濃度二点で粘性緩和スペクトルの温度依存性を測定した。粘性緩和スペクトルは定常粘度でスケール可能であり、構造緩和時間と粘度のデカップリングは、密度モードとずり応力の動的デカップリングによるものであることが示唆された。また、同溶液について、分子動力学(MD) シミュレーション法による構造解析を行い、低波数領域に見られるプレピークは、イオン液体や高級アルコールと同様に、イオン部と無極性部からなるドメイン構造に由来することを示した。 主ピークとプレピークという長さスケールの異なる二つの構造を有する高級アルコールについて、MDシミュレーションによって、粘弾性緩和と構造緩和の比較を行った。粘弾性緩和は二段緩和を示し、速いモード、遅いモードはそれぞれ、主ピーク、プレピークの構造緩和に対応していることが明らかとなった。一方、プレピーク構造を有さない直鎖アルカンの粘弾性緩和も二段緩和を示し、速い成分は主ピークの構造緩和に帰属されるが、遅い成分は並進配向結合に起因することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時に本年度計画していたオルトターフェニルの粘弾性測定は完了し、論文も出版されている。その際に、当初計画にはなかったグリセリンに対する測定も追加している。粘性緩和測定の低温領域への拡張も完了しており、H29年度以降に予定していた、LiPF6/PC溶液の粘弾性緩和測定も行っている。 H28年度に計画していたPCおよびLiPF6/PC溶液の分子動力学シミュレーションも行い、プレピーク構造を再現することで、その妥当性も検証している。 当初計画にはなかった、プレピーク構造をもつ液体における構造緩和と粘弾性のカップリングに関しても、実験・理論の両面から検討を開始している。 一方で、H28年度に計画していた核共鳴準弾性散乱測定は、前期・後期ともに課題申請を行ったものの採択されず、測定を行えていない。しかし、H29年度前期の申請課題は採択されており、測定実施予定である。 以上を総合的に判断すると、本研究課題は概ね計画通り進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度前期には、核共鳴準弾性散乱法による、プレピーク構造を持つ高級アルコールの構造緩和測定を予定している。中間散乱関数を種々の温度で測定し、同一条件で測定した粘弾性緩和スペクトルと比較することで、MDシミュレーションで予想されている、プレピーク構造のダイナミクスに由来する遅い粘弾性緩和の有無を検討する。また、プレピークにおける中間散乱関数に関しては、同位体置換NSE法による、ダイナミクスに対する部分構造の寄与の抽出も検討しており、現在米国NIST、NCNRに課題申請中である。 MDシミュレーションによる構造緩和と粘弾性のデカップリングの解析法は、応力と二体密度関数の相互相関による手法を現在検討中である。現在のところ、メタノールや水などに適用して良好な結果を得ている。今後はまず、過冷却液体の研究に広く用いられているソフトコア混合液体に本手法を適用し、次いで、LiPF6/PC溶液や、同溶液と同様のデカップリングが報告されているLiCl/D2O溶液に拡張する。 また、粘弾性緩和より構造緩和が遅いというタイプのデカップリングが見られている液体には、イオンを高濃度に含むものが多いため、これらの電解質溶液との比較対象として、イオン液体単体や、イオン液体―中性分子混合系にも研究を拡張することを考えている。
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Causes of Carryover |
H28年度に残額が生じた理由は以下の二つである。まず、当初計画では低温測定用に循環恒温槽を購入する予定であったが、申請後に別予算で購入した恒温槽が使用可能であることが分かり、当初計画していた循環恒温槽の購入が不要になったことである。二番目に、H28年度にSpring-8において核共鳴準弾性散乱測定を予定しており、同年度予算で測定に必要な消耗品費を計上していた。しかし、2016A期、2016B期ともに課題公募には採択されず、この測定に伴う消耗品費が消化されなかったことがある。この核共鳴準弾性散乱測定に関しては、2017A期に採択されており、繰り越した経費を用いて実験を行うため、研究課題の遂行には全く支障はない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H29年度当初にSPring-8で核共鳴準弾性散乱測定を予定しており、その旅費や消耗品に本研究費を用いる。NCNRの課題申請が採択された場合には、その旅費にも本研究費を充てる。試料溶液や実験に用いる消耗品の購入にも本研究費を用いる。中間成果は7月にポルトガルで行われる8th International Discussion Meeting on Relaxation in Complex Systemsや10月に行われる溶液化学シンポジウムで発表する予定であり、その参加費、旅費にも本研究費を充てる。
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Research Products
(4 results)