2016 Fiscal Year Research-status Report
液体エアロゾルパルス生成法の開発とその電子スペクトル測定
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16K05520
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
下條 竜夫 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (20290900)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エアロゾル / 光電子分光 / 放射光 |
Outline of Annual Research Achievements |
エアロゾルは大気化学、環境化学などで話題になる数μmのマイクロ微粒子のことである。気候変動や大気汚染などの原因物質であり、また、製造業ではコンタミとして、デバイスの汚染・歩留まり低下を起こす。本研究では、エアロゾルのうち、液体のエアロゾルに注目した。本研究の目的は、真空中に溶液状のエアロゾルをパルス噴射する装置を製作し、分光測定、特に光電子スペクトルとX線吸収スペクトル(いわゆるXAFS)測定実験を真空下で行い、電子状態およびそのマイクロ構造を明らかにすることにある。 昨年度、主に超音波噴霧を利用したノズルの開発を行った。ある種の超音波振動により溶液は噴霧状になることが知られている。この噴霧の大きさは数μm程度である。真空チャンバー内に噴出後、数十ms程度で気化する。この装置により、水、アルコール、有機溶媒を噴霧することが可能である。また、この装置を真空チャンバーに組み込むため、大口径のパルスバルブ、ノズル、液体窒素トラップ部からなる接続部分の開発を行った。大口径(5mm程度)のバルブを用いることで、超音波噴霧法により生成したエアロゾルは、数十マイクロ秒開いたバルブを通り、その少量が真空チャンバーに噴出する。 今年には、本装置をSPring-8 BL17SU(理研ビームライン)に持ち込み、BL17SUにある世界最高性能の光電子分光装置SCIENTAにて実験を行う。現在、測定のための時間分解の画像測定装置一式を購入し、測定プログラムを開発中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)エアロゾル噴出用のチャンバー製作を行った。真空チャンバーは大口径のパルスバルブ、ノズル、液体窒素トラップ部からなる。以前は数十ミクロンの径のパルスバルブを用いていたが、すぐにノズルがつまってしまった。そこで、大口径(5mm程度)のバルブを用いた。超音波噴霧法により生成したエアロゾルは、大口径の数十マイクロ秒開いたバルブを通り、その少量のみがチャンバーに噴出する。その後、パイプノズルから噴出したエアロゾルに軟X線光を照射する。生成した光電子は垂直方向に置かれた光電子分光装置で検出される。残った試料はそのまま穴のあいた液体窒素トラップ部に導かれ、そこで吸収排気される。 2)エアロゾルは真空中では外側から蒸発し、噴出直後とその後では粒径サイズなどに変化が生じる。そこで時間分解で光電子分光を行うための光電子スペクトル画像観測装置を開発した。約20 Hzで測定することで、50 ms程度の時間分解能で測定することが可能になった。これを利用して、噴出直後のみの光電子スペクトル測定を行うことが可能となった。 3)実際にSPring-8のX線自由電子レーザー(SACLA)利用を申請し、軟X線光電子分光測定実験を行った。X線自由電子レーザーを用いた場合、エネルギーの高い光を高強度で利用できるため、微少量でも測定できるという長所がある。ヨードメタン、トリフロロメタン、窒素の測定実験を行った。結果については現在解析中である。
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Strategy for Future Research Activity |
1)今年には本装置をSPring-8 BL17SU(理研ビームライン)に持ち込み、BL17SUにある世界最高性能の光電子分光装置SCIENTAにて実験を行う。実際の実験、溶液としてヘキサデカン、ドデカンを用いる予定である。特にヘキサデカンは高い融点(291.3K)を持ちながら、蒸気圧が低いため(0.000294 mm Hg)、真空実験に最適である。また、溶質として、これらの塩化物、臭化物、塩を現在検討中である。
2)X線吸収スペクトル(XAFS)測定により、エアロゾル粒子の構造に関する知見を得る。我々は薄膜窓を用いて液体エアロゾルのX線吸収スペクトル(XAFS)測定をすでに行っており、アミノ酸を含んだ噴霧の測定に成功している。しかし、薄膜窓を用いた場合、液体エアロゾル自身が薄膜窓に付着し、正確なスペクトル測定は不可能であった。これを上記のように、エアロゾル粒子を真空中にパルス放出する方法で生成し、そこに軟X線を照射し、生成イオン量の測定から吸収スペクトルを得る。XAFSスペクトルをフーリエ変換することにより、近傍原子の情報が得られることはよく知られており、エアロゾル粒子の構造に関する情報が得られることになる。
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Causes of Carryover |
共振周波数を持った複数の振動子を設置し、そこに、ファンクションジェネレータから発生した高周波を、アンプで増幅するため高速バイポーラ電源を購入して、エアロゾルの発生措置を作成する予定であった。しかし、同等の製品を作成可能であることがわかり、自前で作成した。また、余剰分を画像観測装置、チャンバー部品に適用した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度、ノズルの改良として、エアロダイナミックレンズの開発に使用する予定である。エアロダイナミックレンズは複数のアパーチャー(穴)を連結させたもので、中心部分だけにエアロゾルを集中させることができる
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