2016 Fiscal Year Research-status Report
エントロピー力で駆動される高分子結晶の空隙への分子吸蔵
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16K05521
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
千葉 文野 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (20424195)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 高分子 / 空隙 / 吸蔵 / 吸着 |
Outline of Annual Research Achievements |
高分子結晶 sPS (syndiotactic polystyrene)は、空隙の多い構造を有し、その空隙に各種分子を吸蔵することが知られている。sPSフィルムを各種アルカンの混合溶液に浸漬すると、鎖長の長い分子のほうが選択的に吸蔵される現象が報告されている。我々は、その理由を解明するため、このように既に知られている現象を、実験で再現することから始めた。sPS 結晶のフィルムを、クロロホルムとヘキサン、または、クロロホルムとデカンの混合溶液に浸漬し、これらの分子の吸蔵量を赤外分光法により調べた。その結果、ヘキサンよりも、デカンを吸蔵する顕著な傾向を観測でき、過去の文献にある結果を確認できた。特に、クロロホルムとデカンの混合溶液では、クロロホルムのモル分率 0~80%において、クロロホルムは殆ど吸蔵されず、デカンだけが選択的に吸蔵されることなど、新しい知見も得られた。 これら2種類の混合溶媒を、大小2種類の剛体球流体で近似し、まず表面吸着の問題から考えてみた。HNC-OZ理論により分布関数を計算した結果、上述のような、選択的吸蔵、ヘキサンよりもデカンを吸蔵する傾向、また、吸蔵量のモル分率依存性を、どれも定性的に説明できることが分かった。吸蔵速度についても、定性的に説明が可能であった。今後は、多孔性のホストへの吸蔵の問題へとつなげたい。 また、sPS について知られている、このような吸蔵現象は、高分子isotactic poly(4-methyl-1-pentene) (P4MP1)の結晶についても起きるのではないかと考え、P4MP1結晶をホストとする一連の実験を行い、たとえば、デカンが吸蔵されることを見出した。その吸蔵速度についても、実験の結果、新しい知見がえられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、sPS と、デカン、ヘキサン、クロロホルムを用い、過去の文献と同様の結果を確認することができた。溶媒の組成を細かく変化させ、これまで発表されていない結果も得ることができた。また、P4MP1 結晶についても同様の実験を試み、たとえばデカンが吸蔵されることを見出した。吸蔵速度がクロロホルムの添加で大幅に増大するという結果も、sPS では報告があったが、P4MP1については、これまで報告のないものである。いくつかの組成に関しては、当初予想していた以上の興味深い結果が得られた。 理論部分の進展については、実験結果を、まずは剛体球系による吸着の問題としてとらえ、実験結果を定性的に再現することができた。しかし、溶媒分子が球状とは言えないことや、吸着でなく吸蔵を扱いたいことなど、実験と理論の間で、扱っている系の開きは、まだ大きい。しかし、理論と実験の間の隔たりは当初から予想していたものである。
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Strategy for Future Research Activity |
P4MP1 に対する吸蔵現象は、殆ど論文が出版されていないので、まずは P4MP1 系から論文化したい。本研究では、枯渇相互作用による吸着を議論したいと考えており、ベンゼン環を持つ sPS よりも、ポリオレフィンである P4MP1 を用いる方が、電子的相互作用による影響が軽減される可能性が高く、モデル系として、より良いのではないかと考えている。可能であれば、溶媒に関しても、クロロホルムではなく、アルカンの吸蔵に研究対象を絞りたいが、赤外分光法では、アルカンを区別することが難しいので、重水素化試薬を購入できるかどうか、予算を見ながら進めていきたい。 理論部分に関しては、実験で扱っている系とは、モデルに隔たりがあるので、独立した論文としてまとめる予定で、これを引用する形で実験結果を論文化したいと考えている。
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Causes of Carryover |
1175円を次年度使用額とした理由は、2リットルのパイレックス製のビーカー(3500円)を購入するには足りなかったので、次年度に購入することにしたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越した1175円は、2リットルのパイレックス製のビーカー(3500円)等の消耗品に使用する計画である。
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Research Products
(8 results)