2016 Fiscal Year Research-status Report
生体反応とカップルする大規模構造変化のためのマルチレゾリューション法構築
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16K05526
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
岩橋 千草 (小林千草) 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 研究員 (30442528)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 粗視化モデル / DoMEモデル / 分子動力学法(MD) / string法 / レプリカ交換アンブレラポテンシャル(REUS)法 / 膜タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、1. 膜ポテンシャルの構築と2. 代表者らが構築した粗視化モデルであるDomain Motion Enhanced(DoME)モデルをString法やレプリカ交換サンプル法に適用するサンプリング法の構築の準備を行った。 1に関しては、膜タンパク質の構造変化の解析を行うため、タンパク質と膜分子との相互作用を模したポテンシャルを構築し、DoMEモデルに適用した。具体的には、膜面に水平な方向に対しては中心から離れる方向に反発項を、垂直方向に対しては結晶構造から得られた各残基に対する親和性を与える関数を、それぞれ導入した。その結果、膜貫通部位の運動が抑制され、膜分子の効果を陰に取り入れる膜ポテンシャルの効果を示した。また、代表的な膜輸送タンパク質であるカルシウムイオンポンプの全原子モデルでのMDを行い、膜貫通部位、水溶性ドメインの両方に対して揺らぎ・運動の解析を行った。 2に関しては、当初は平成30年度に行う予定であったが、開発した手法を広めることを目的とし、所属チームで開発している分子動力学法(MD)ソフトウェアGENESISの新バージョンの公開にあわせて行った。具体的には、DoMEモデルの最小自由エネルギー経路を求めるstring法、求めた経路上の自由エネルギープロファイルを求めるレプリカ交換アンブレラポテンシャル(REUS)法への適用を行った。これらの計算では、反応座標となる集団変数はDoMEモデルから求めた主成分座標を用いた。また、この集団変数に対してREUSを実行する際によりサンプリング効率を上げる手法を適用した。この結果は、原著論文の一部として現在投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度では膜タンパク質における大規模構造変化の解析を行うのに必要な、膜ポテンシャルの構築を計画していた。この計画に従い、タンパク質と膜分子との相互作用を模したポテンシャルを構築し、タンパク質の粗視化モデルであるDoMEモデルに適用した。DoMEモデル、膜ポテンシャルのどちらも所属チームで開発しているMDソフトウェアGENESISに導入し、MDのみならず、レプリカ交換法計算やstring法などの自由エネルギー計算にも対応させた。さらに、DoMEモデルを用いた自由エネルギー計算において効率を上げる手法を開発した。これらの成果はソフトウェアの新バージョンとして公開を行い、原著論文を投稿中である。自由エネルギー計算手法へのDoMEの適用は、平成30年度に計画していたものであり、その点では計画以上に進展している。 しかし、その一方で平成28年度に計画していた膜タンパク質の全原子モデルを用いた揺らぎや運動の解析に関しては遅れが生じている。これは、従来の手法より高速で安定な分子動力学手法の開発を行っていたためである。手法の開発は既に終了しており、現在は膜タンパク質のMD計算を高速に実行している。そのため、揺らぎや運動の解析は平成29年度の前半に行う予定であり、十分に遅れを回復できる見込みができた。 以上の点から、現時点までの進捗はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目である平成29年度は、昨年度からの継続項目である膜ポテンシャルに対して、詳細な全原子モデルによるMDでの揺らぎ・運動、膜面に対する膜貫通領域の配向を比較し、その効果の検証を行う。 さらに、複数の構造間を繋ぐmulti-basin法の構築と、比較的短いシミュレーションと自由エネルギー計算、パラメータ調整を繰り返すことで自動的にパラメータ調整を行う手法の開発を行う。テストセットとしては比較的小さな水溶性のマルチドメインタンパク質を用いる。 リガンドと側鎖との相互作用などの配位構造を解析するために、全原子の粗視化モデルの構築を行う。残基を最小単位とする従来のDoMEモデルでは、残基あたり1つの粒子を用いるが、全原子モデルでは水素以外の原子が含まれるため、残基内の結合性相互作用が必要となる。現在までの研究でstructure baseモデルでの結合性相互作用が、反応状態間の構造変化の障壁を上げる要因の一つであることが示されている。そのため、結合性相互作用には物理モデルを用いる。その一方で、残基間の相互作用では、従来のstructure baseモデルと同様に、結晶構造で近傍に居る粒子対を抜き出し、その粒子距離が最安定になるようなポテンシャル関数を与える。ドメイン間相互作用に関しては、残基ベースのDoMEモデルと同様にMotion Treeで得られるドメイン分割、運動の大きさに従い、パラメータを決定する手法を用いる予定であるが、側鎖間のパッキングなどの問題が起きる恐れがある。その際には主鎖と側鎖でパラメータの強さを変更するなどで対応する。 また、開発された結果を論文としてまとめるだけでなく、GENESISの機能として追加し、一般に公開も目指す。
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Causes of Carryover |
物品費に関しては、ワークステーションの購入を行ったが、計画した価格より安価に導入が可能になり、差額が生じた。また、旅費に関しても、海外での学会発表を計画し、予算の計上したが、実際には海外での発表を行わなかったため差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
申請時に計上したが、交付時に減額によって取り下げたコンパイラを購入し、平成28年度に購入したワークステーションに導入した。購入の手続きは既に終了している。
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Remarks |
所属チームで開発した分子動力学法ソフトウェアのwebページです。平成28年7月末に新しいバージョン1.1を公開した。
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