2016 Fiscal Year Research-status Report
上層傾圧循環の謎: 南東インド洋表層循環を例として
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16K05562
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
古恵 亮 国立研究開発法人海洋研究開発機構, アプリケーションラボ, 主任研究員 (30311640)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ルーイン海流 / 質量収支 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画調書(2015年11月)に予定として記載した豪州タスマニア大学への招聘が実現し2016年1月末から七週間滞在した。そのときタスマニア大学の研究者たちと始めたルーイン海流系の流量収支の研究を、平成28年度に発展させた。 豪州西海岸に沿って海面付近を南向きに流れるルーイン海流と、その下 200-800 m 付近を赤道向きに流れるルーイン潜流の存在は古くから知られていて、また、観測や数値モデルの結果から、沖の海面近くには弱い東向きの流れがあり、それがルーイン海流に側面から流れ込んでいるのではないかとの示唆もあったが、その東向流とルーイン海流の関係の詳細は不明であった。 豪州の研究者が、世界で共有されている外洋の観測データと豪州の岸近くの観測値とを組み合わせて作成した高解像温度・塩分月平均気候値データがある("CARS")。私たちは、それに地衡流計算を施し流速を計算し、ルーイン海流・ルーイン潜流の流量収支を計算した。岸近くの地衡流計算はそのままでは海底を横切る流れを産んでしまい、流量収支が閉じた計算が出来ない。そこで、ヘルムホルツ分解により、海底を横切る流れがなくなるように、水平流速場を僅かに修正するという、新しい地衡流計算法を開発した。流量収支計算の結果、上層からルーイン海流の側面に流入した水の六割以上が沈降しルーイン潜流の上部に付け加わり、潜流の側面から内部領域に出ていくとの結果を得た。豪州の渦解像モデルであるOFAM3と海洋研究開発機構(JAMSTEC)アプリケーションラボ(APL)で行っている渦解像モデルOFESの長期積分結果に同様の解析を施し、やはり同様な流れが得られた。これは、ルーイン海流系が沈み込み域となる鉛直面内循環が存在するということである。この結果を論文にまとめ出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画当初は概要に述べたようなはっきりとした結果が出るとは思っていなかった。本計画の大きな目的は、東岸域の力学が内部領域の傾圧構造にどのような影響を与えるかであったが、先の結果は東岸の傾圧構造を観測事実として明らかに示すもので、以下の「今後の研究の推進方策」で述べるような発展性を持っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の結果から当然起こる疑問は、(1)その沈降流は等密度面に沿ったものなのか、(2)中規模渦輸送の効果はどの程度あるのか、(3)沈降し内部領域に出ていった水はどこに流れどこで湧昇するのか、(4)ルーイン潜流は何が駆動しているのか、である。(1)(2)は観測データのみから調べるのは難しいため、JAMSTECのAPLで行っている渦解像モデルOFESや豪州の渦解像モデルであるOFAM3の長期積分結果を解析し、観測結果と比較する予定である。(3)は観測データの水塊分析を行ったり、観測に基づく地衡流に仮想浮体を流したり、渦解像モデルで同様な解析をしたりすることで調べる予定である。(4)は平成29年度中に取り組むことが出来るかどうかは分からないが、数値モデルあるいは理論モデルの考案はするつもりである。次年度以降には、ルーイン潜流を再現する理想的数値モデルを構築し、内部領域との相互作用を理論的に研究したい。全ての項目について、タスマニア大学の研究協力者と適宜相談しつつ行う。また、その研究相談のため、平成29年度後半にタスマニア大学に10日程度滞在する予定である。
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Causes of Carryover |
当初の予定より論文執筆に集中したため、大規模な国際学会に出席しなかった。また、数値モデル実験を行わず既存のデータを解析することに集中したため、使用するデータ量が少なく、ハードディスクなどの物品も必要でなくなった。以上のことから、旅費と物品費で未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、大規模国際学会で平成28年度の成果を発表する。また、タスマニア大学に滞在する期間をできるだけ長く取り研究を進める。
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Remarks |
上に挙げたのは「研究内容」ではなく、 研究協力者(かつ論文の共著者)の 業績リストで、そこに、先に記した平成 28年度出版の論文が載っています。
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Research Products
(10 results)
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[Presentation] 格子化水温塩分資料に基づくルーイン海流系の構造2016
Author(s)
古惠 亮, Kevin Guerreiro, Helen E. Phillips, Julian P. McCreary, Nathaniel L. Bindoff
Organizer
日本海洋学会2016年秋季大会
Place of Presentation
鹿児島大学(鹿児島県鹿児島市)
Year and Date
2016-09-13
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