2017 Fiscal Year Research-status Report
北極海に起因する太平洋・ベーリング海の海洋循環変動の解明
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16K05563
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
川合 義美 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 主任研究員 (40374897)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
増田 周平 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, グループリーダー (30358767)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 海洋物理 / 北極海 / ベーリング海 / 塩分 / 海面高度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、北極海における海洋循環場の変化が如何にして上流側の北太平洋寒帯・亜寒帯域の塩分や海洋循環場に影響を与えるのか、その物理過程を明らかにすることを主な目的とする。これまでの解析によって明らかにした、ベーリング海峡通過流(BTF)の流量と周辺海域の海面塩分及び海面高度(SSH)との関係を査読付き英字論文誌に投稿し、論文が受理された。太平洋側から北極海に流出する海水の塩分は大西洋の塩分に比べて低いため、BTFの流量が少なければベーリング海が低塩化することは定性的には予想されるが、観測やモデルのデータによりこれを示した論文は過去になく、それを指摘した初めての論文となった。また、北極海のSSH変動がベーリング海の海洋循環場の変動を引き起こす可能性を示した点も価値がある。本年度は更に、4次元変分法海洋データ同化システムを用いて推定された全炭酸データの解析にも着手した。BTF流量が多い年には、ベーリング海南東部のアリューシャン海盆からアリューシャン列島南方にかけての海域で表層の全炭酸濃度が低いことがわかった。有意な相関が見られる海域はベーリング海峡から離れているため、BTF流量の変動と全炭酸濃度に直接の因果関係があるというより、BTF流量に影響を与えるアリューシャン低気圧の位置や強度が冬季の海洋混合を通じて全炭酸濃度に影響を与えていると考えられる。また、ベーリング海・チュクチ海の海洋変動が大気に与える影響を調べることを目的として、大気再解析データの解析も行った。両海域とも、中緯度と同様に、海面温度の勾配が最大となる場所の南側で大気の収束が卓越することがわかった。この結果を国際学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度はこれまでの解析結果を論文として発表し、更に、塩分やSSHといった物理量だけではなく、全炭酸濃度とBTF流量との関係の調査も開始した。水温場との関係もこれまでの解析ですでに調べたが、ベーリング海の表層水温偏差は北極海に起因する部分よりも、BTFの流量を決めるベーリング海上の南東風成分で決まる部分の方が大きいことがわかった。また、北極海に起因するベーリング海の塩分偏差は概ねベーリング海の中に留まり、アリューシャン列島の南方にまで伝播する可能性は高くないこともこれまでの解析から示唆された。ここまでについては、概ね計画通りの進捗である。同化システムを用いた逆追跡実験も行う計画であるが、海氷の入った新しい高解像度海洋同化モデルの開発は予定よりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのモデルデータの解析でベーリング海北西部の塩分偏差の一部が北極海シベリア沿岸のSSH偏差に起因することを示したが、4次元変分法を用いたデータ同化システムではシグナルの逆追跡を容易に行えるので、この同化システムで逆追跡実験(感度解析)も行い、シグナルの伝播がどの程度の範囲に及び得るのか明らかにする。現在、高解像度海氷入り同化モデルを開発中であるが、開発がやや遅れ気味であり信頼性に疑問が残る可能性がある。このため、海氷の入っていない旧来の同化システムも併用する。ベーリング海峡より北の北極海内部のシグナルを追跡するのには不十分なところもあるが、暖候期のシベリア・アラスカ沿岸部に限定すれば議論に耐え得るものであると考える。 また、引き続き、海洋データ同化プロダクトESTOCを用いて、ベーリング海・北極海における気象・海洋循環と全炭酸濃度との関係を更に解析する。必ずしも北極海内の物理変動に起因するとは限らないが、酸性化の進行が深刻な極域・寒帯における全炭酸濃度の変動を明らかにすることには大きな意義がある。また、ベーリング海やチュクチ海における表層の水温変動が大気場に与える影響についても、大気再解析データや現場観測データを用いて更に調査を進める。
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