2016 Fiscal Year Research-status Report
球体化防御姿勢の成立におけるボディ―プランの制約と生体生理特性の調整機構の解明
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16K05588
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
鈴木 雄太郎 静岡大学, 理学部, 准教授 (50345807)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 球体化防御姿勢 / 咬合関係 / 成長様式 / 接触感知 / 精度 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダンゴムシで広く認知されている球体化防御姿勢の成立には,全ての骨格部位の位置関係や凹凸の咬合具合を調整するような,遺伝子による働きだけでは説明できない不自然な形づくりが求められる.この成立機構について,現生節足動物の主要グループにおいて,球体化に伴う脱皮・行動様式と形態学的な構造的特徴との調整方法を提示する目的の下に本研究を進めている. 四亜門で構成される現生の節足動物において,甲殻亜門ハマダンゴムシ(Tylos graniliferus),多足亜門ヤマトタマヤスデ(Hyleoglomeris japonica)についての形態学的検討をほぼ終了した.咬合部位には,両者ともに指向性が明瞭な接触感知器官が備わっており,凹凸の咬合時に受容する刺激を感知する仕組みとなっていた.両者は類似する概形をもつが,隣接しない骨格部位の咬合様式と接触感知器官の配置面積に著しい違いが確認された.前者は凹凸の咬合関係が1部位に対して1部位であったが,後者では凹凸の咬合関係が1対複数であった.接触感知器官の配置様式については,前者では凹部の接触感知器官が1~数個に対し,後者では線状に配列した多数の感知器官がさらに平行に複数本配列することで,面状の凹部咬合領域を形成していた.つまり,後者は咬合部位の対応精度がより低くても球体化姿勢を構築できることが示唆された.球体姿勢の構築に必須となる凹凸部位の咬合における精度の違いは,成長過程に置ける構築部位数の変化を内包していることが示唆された.この点に各亜門の成長様式の基盤となるボディープランの相違が反映されている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた節足動物門の全四亜門中の残り二亜門については,試料の入手が当初の想定より困難であり,くわえてサイズが小さく扱いが困難であったため,進捗状況は思わしくない.一方で検討を進められた二亜門については,ほぼ検討が終了段階である.本研究の観点で行った先行研究は皆無に等しいため,多くの新知見を得ることができた.甲殻亜門については発生遺伝学的な研究を含めて先行研究が豊富であり,行動ー形態と形態形成の統合考察を予定通りに推し進めることができた.多足亜門についての同様の先行研究はより貧弱ではあるものの,検討を進めてゆくと重要な知見が近年活発に提供されていたことが判明し,当初の予定よりも二亜門での比較検討を推し進めることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度と同様に昆虫類マンマルコガネ(Madrasostes kazumai hisamatsui),鋏角類オオイレコダニ(Phthiracarus setosus)についての形態解析を進める.両者ともに甲殻亜門における高い精度での咬合様式であることを予察的に確認している.詳細な検討に加えて,成長様式等の先行研究の知見を取得してゆく. 球体化防御姿勢の成立様式の全容解明を介して,生物の形づくりにおいて上流に位置する生得的に備わる遺伝子の働きが形の土台を作り上げて,可動する外骨格上の各領域の接触や咬合具合を触覚機構が検証しながら形の微調整を行う,といった副次的な機構が働いていることを例示することとなろう.さらに,化石節足動物の三葉虫類では様々な球体化防御姿勢が報告されているため,咬合様式の精度の観点からタイプ分けを行ってゆき,形態進化における制約(生得的に備わる遺伝子の働き)と新奇性(副次的な調整機構)との関係が,多様化に果たした役割についての議論を展開する準備を進める.
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