2016 Fiscal Year Research-status Report
日本最古の新生代哺乳類の放散イベントと多様化に関する基礎的研究
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16K05594
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
宮田 和周 福井県立大学, 恐竜学研究所, 准教授 (30719480)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 哺乳類の系統 / 奇蹄目 / 汎歯目 / 始新世 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は日本最古の新生代哺乳動物群(前期/中期始新世境界付近)の特異性を明らかにし、北極圏経由の大陸間における哺乳類放散イベントと多様化、およびアジアの哺乳類生層序の精度向上のための基礎資料を提出するのが目的である。このため、汎北半球的分布およびアジア限定分布となる分類群(奇蹄目・汎歯目)に着目した系統の解析を行い、放射性年代値を加えることが主軸となる。初年度は1)アジアの奇蹄類との比較、2)探索的な年代測定、3)未剖出化石資料の研究準備の3項目を進めた。1)本年度末に中国・北京の中国科学院古脊椎動物古人類研究所にて、奇蹄目の基盤的なバク形類とバク上科、サイ上科の資料4種19点の比較を行った。特に熊本県産バク形類に関わる“イセクトロフス科”と、福岡県産サイ上科に関わるヒラキウス属のアジア固有種の形態データを得た。2)福岡県宗像市、熊本県上天草市と天草市、そして鹿児島県薩摩川内市から産出した哺乳類化石の年代を特定するため、関連する凝灰岩および凝灰岩質砂岩の収集と現地調査を実施した。計約20の層準から見込みのあるサンプル12点を選び、ジルコン粒子をそれぞれ抽出、U-Pb年代測定を研究協力者(富山大学大学院理工学研究部大学院生 長田充弘氏)の協力のもと実施した。測定を名古屋大学理学部環境学研究科のLaser ICP-MSを使用して進めてきたが、予察的データが得られはじめたものの、測定機器不調のため探索的年代測定は年度内に終えることができなかった。3)福岡県宗像市産の汎歯目化石の剖出作業は14箱分と多量であるため、大きなブロックについてはCT撮影を行い、部位特定が見込める資料から剖出作業を行った。その荒削り作業に人件費を使用し、十数点の資料については大部分完了したが、数点の重要な部位の剖出が残される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は3年計画であり、計画に比べると順調に進んでいるものと、若干遅れているものがある。下記の順調とは言えない点は、次年度に遅れを取り戻せるものと考える。まず、1)中国・北京の中国科学院古脊椎動物古人類研究所での調査は、本年度中に基盤的なバク形類とバク上科の調査がほぼ完了できた。このデータのとりまとめをし、一定の結論を次年度に成果発表をすることとなる。しかし、日本の資料と直接比較する基盤的なサイ上科の資料(下顎骨)は、残念ながら今回の訪問施設では古い標本のためか所在不明で、未完である。比較すべきアジアの資料は北米の機関にも保存されているので、北米での研究に切り替える。2)年代測定の凝灰岩、および凝灰岩質砂岩の収集と野外調査はほぼ順調に進んだ。しかし、鹿児島県薩摩川内市上甑島の資料については思いの外ジルコン粒子が少ないため、再度収集しなければならない。本年度後半には名古屋大学理学部環境学研究科のLaser ICP-MSを使用して探索的年代測定をほぼ終える予定にあったが、測定機器が不調のためにスケジュールも押さえられず、探索的測定は終えていない。そのため次年度に予定していた精査的測定の検討が行えないため、2カ年に亘る年代測定の計画を1年遅らせる事となろう。本報告書作成時点では、機器回復の調整が済み次第とりかかる予定だが、もし回復が遅れる場合は代わりの機関(東京大学)にて測定が実施できるか、並行して交渉を行う。また、3)福岡県宗像市産の汎歯目化石の剖出作業は、CTによる事前の準備作業の甲斐あって、順調に進んでいる。しかし、歯などの数点の重要な部位の剖出作業は未だ残されており、これら剖出補助作業にあたる人件費も予定より必要となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度初めに中国・北京の中国科学院古脊椎動物古人類研究所で汎歯目コリフォドン科化石の調査の一部を先行させ、日本産汎歯類化石に関する成果の一部を公表する計画である。また、予定通り北米の機関に収蔵される奇蹄類と汎歯類の系統解析データを収集する。1)初年度の結果により、日本の種と近縁と考えられる北米種標本の比較研究を、北米の機関(アメリカ自然史博物館、イェール・ピーボディ博物館など)で行い、化石の系統解析データを収集する。その際、初年度に完了できなかったアジアのサイ上科化石およびブロントテリウム科の資料も観察する。汎歯目コリフォドン科については基盤属のCoryphodonと、アジア固有のEudinoceras属のデータ収集を予定している。2)年代測定については初年度に探索的な測定データが十分に得られていないため、次年度は早急に名古屋大学ないし東京大学のLaser ICP-MSを使用して進め、できるだけ次の段階の精査的測定(平成29年度の予定を平成30年度に振り替える)の判断材料を得る。また、ジルコン粒子不足の為、鹿児島県薩摩川内市上甑島の中甑層の凝灰岩を再度収集し、ジルコンの抽出に特段の熟練が必要なものは外部への委託も検討する。3)また、福岡県宗像市産の汎歯目化石の剖出作業は歯などの数点の重要な部位の剖出作業は残されており、これら剖出も進める。また、海外の研究機関で比較研究する際、実物化石は持ち出しができないため複製を制作して研究を行う。なお、北米の機関の標本のうち、比較研究の上で欠かせない資料の複製が入手できる場合はその交渉も行い、資料の収集に努める。
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Causes of Carryover |
予定していた名古屋大学における年代測定機器の不調により、測定作業が順調でなくなったため、平成29年度の探索的年代測定で使用予定であった消耗品費、打ち合わせの旅費、謝金などは本年度中に使用できなかった。また、中国・北京の中国科学院古脊椎動物古人類研究所での標本調査は、訪問機関の目的の標本に詳しい研究者と面談するため、そのスケジュールの都合上、年度末から次年度初めに亘る。そのため、本年度としてはその約半分しか使用できていない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は前年度に使用できなかった探索的年代測定に関する消耗品類、旅費、およびジルコンの抽出費用や謝金に次年度は充てたい。もし次年度内に測定が進めば、精査的測定にもとりかかる。また、次年度早々に中国・北京の中国科学院古脊椎動物古人類研究所での汎歯目コリフォドン科化石調査の一部を進めるための旅費として使用し、さらに、福岡県宗像市産汎歯目化石の未完となっている化石剖出補助作業にかかる人件費にも使用する。
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