2018 Fiscal Year Research-status Report
日本最古の新生代哺乳類の放散イベントと多様化に関する基礎的研究
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16K05594
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
宮田 和周 福井県立大学, 恐竜学研究所, 准教授 (30719480)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 始新世 / 哺乳類 / 奇蹄目 / 汎歯目 / 放散 / 多様化 / 化石 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、新生代初期の北米―アジア間における哺乳類の放散と多様化、およびアジアの哺乳類生層序学に寄与する基礎的資料を、日本の資料から提出することが目的である。本年度では前年度に続き、九州の始新統から知られる哺乳類化石について、1)北米の汎歯目コリフォドン科の比較研究、2)北米の奇蹄類との比較、3)化石産出層の年代測定精査の3項目を進めた。1)本年度11月末から12月初めに、アメリカ自然史博物館(ニューヨーク)およびイェール大学ピーボディ自然史博物館(ニューヘイブン)にて、九州の資料(熊本県天草市、福岡県宗像市、鹿児島県薩摩川内市)と関連が深いコリフォドン科の基盤属Coryphodonとの形態比較を行い、同科の歯牙形態との頭蓋形態についてデータを得た。また、2)上記北米の両機関においては、鹿児島県産ブロントテリウム科に関する比較研究も行い、多くの形態データを得た。この日本産のブロントテリウム科の化石は、形態や年代的にもアジアにおいては非常に古く、原始的な種であることが判明した。3)前年度の探索的年代測定結果を受けて、本年度はその精査的年代測定にとりかかった。ジルコンの抽出に特段の熟練が必要なものついては外部に委託した。サンプルは福岡県宗像市、熊本県宇土市と天草市、鹿児島県薩摩川内市の化石産出層付近の凝灰岩および凝灰質泥岩で、これらとほぼ同じ時代となる長崎県西海市の赤崎層の凝灰岩を参考として加えた。熊本県と鹿児島県のサンプルについては予想していた年代を得ることができた。年代測定は、前年度と同様、東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設の機器(Laser ICP-MS)で実施した。これら1)~3)の進行している結果を基に、論文の投稿準備が進められている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
哺乳類生層序学に関する研究では、日本の汎歯類と奇蹄類化石を海外の標本を交えて比較し、その日本の化石年代値を加えることが目的となる。本年度では、1)熊本県天草市産のバク上科の奇蹄類化石について、中国と北米の機関が所蔵する標本に加え、ミシガン大学古生物博物館の協力により、同時期のパキスタンの資料も含めた研究に展開している。これらの資料を含めた論文の下書きが進行しているが、当初よりもより包括的なバク上科の系統解析を試みている。2)鹿児島県薩摩川内市産のブロントテリウム科奇蹄類化石については、北米の機関が所蔵する基盤的な属(PalaeosyopsとEotitanops)、およびパキスタンのBalochititanopsの形態データを加えた比較研究を進め、そのデータを加えた成果を国内外の学会で発表した。これについても、その論文の下書きが進行している。3)福岡県宗像市産の基盤的なサイ上科の比較研究は、前年度に追加した化石剖出作業で、橈骨などの重要な追加資料が得られた。アメリカ自然史博物館でこの追加の比較研究を行った。4)宗像市および天草市産の汎歯目コリフォドン科化石の分類学的検討では、課題となっていた同科の基盤的属Coryphodonとの比較を本年度の調査で加えることが可能となった。現在、その結果を取りまとめ中である。5)本年度に化石の年代について、精査的測定を実施し、6点の凝灰岩および凝灰質泥岩サンプルに絞って精査測定を行い、概ね予想していた年代値(約5000万年前後)が高い精度で得られた。その一部については学会で発表したが、宗像市の一部の試料については、予想よりも500万年若い年代がある。予想とは大きく異なるため、その追試的測定を実施しなければならない。それ以外については概ね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
中国およびアメリカでの研究機関で得られた比較研究は概ね順調である。それらの結果を基に、1)熊本県天草市産のバク上科、鹿児島県薩摩川内市産のブロントテリウム科、福岡県宗像市のサイ上科の化石を主題とした、前期始新世奇蹄類の北半球における初期の放散に関する論文を準備し、投稿する予定である。バク類の論文においては非常に複雑な系統解析があり、現在その精査を行っている。また、サイ類の研究結果については次年度に学会発表を行う予定である。さらに論文の公表の時期と併せて、研究の意義が一般にも分かりやすいようにプレスリリースや展示も計画にある。 2)熊本県天草市産および福岡県宗像市の汎歯目コリフォドン科化石では、中国科学院古脊椎動物古人類研究所(北京)および、アメリカ自然史博物館(ニューヨーク)、イェール大学ピーボディ自然史博物館(ニューヘイブン)での同科の比較研究により、アジアの同科の放散とそのタイミングについてデータが得られた。次年度に論文公表に向けて執筆中である。前者はコリフォドン科の新種であり、後者はEudinocerasの大型種と見られる。また、福岡県宗像市の化石には環椎や脛骨など、アジアでは知られていない部位も含まれていた。これらの研究結果も学会などで公表する予定であるが、以下にあるように化石の年代に問題がある。 3)本年度で概ね良好な結果が得られた化石産出地層の精査的年代測定は、本年度に学会で発表し、現在その論文を執筆中である。次年度に投稿の予定であるが、宗像市の化石に関する年代については一部に予想の年代値よりも若い年代が得られた。次年度にその追試を行う。また参考値として追加した長崎県西海市の赤崎層は予想よりも古い。追試により新たにデータを検討でき次第、学会および論文での公表を進める。
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