2017 Fiscal Year Research-status Report
第三紀温暖要素にもとづいた日本列島ー台湾間の植物交流史の解明
Project/Area Number |
16K05599
|
Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
矢部 淳 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, 研究主幹 (20634124)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤木 利之 岡山理科大学, 理学部, 講師 (10377997)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 琉球列島 / 植物地理 / 遺存固有 / 更新世 / 古気候 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の後期新生代層には現在の台湾に自生する植物属や種がしばしば含まれ、これらは南からきた”温暖要素”ととらえられてきたが、これらの要素は日本列島では新第三紀を通じて化石記録が認められる一方、現在の分布域である台湾では化石が産出しないことから、これらが日本列島から琉球列島を経由して分布を南に広げたという仮説を提示できる。この仮説を証明するため、本研究では台湾現生種のランダイスギおよびタイワンスギの2種をターゲットに、1)琉球列島を通じた陸橋が存在したと考えられる、前期更新世以前の日本に台湾現生種(=”温暖要素”)がすでに存在したこと、2)それらが現生種と同じ環境条件下に生育していたことについて検証をすすめている。平成29年度は前年度の発掘調査で得られた形之山化石群の化石の抽出と分類学的な分析を進め、大型化石では、従来、ランダイスギとされた種がランダイスギに同定できることを確かめた。一方タイワンスギについては、クチクラの検討結果からスギである可能性が示唆された。また、ともに産出した化石の検討結果から、これらが現在の屋久島の高度600-1000mの群集に近いことが明らかとなった。研究分担者の藤木による花粉分析では、ヒノキ科植物の種レベルでの同定のためSEMでの観察をすすめるとともに、泥岩からの花粉分析の精度をさらにあげて気候的な背景を明らかにするよう努めた。花粉分析の結果も、基本的には大型化石の結果を支持するものとなっている。当該年度はさらに九州本土における鮮新世後期から更新世前期の化石群集の再検討を進め、コウヨウザン属、タイワンスギ属化石の分類学的研究と古気候学的解析を進めている。本研究に関して、当該年度は学会発表2件(うち国際学会1件)を行い、本州の前期更新世化石群集から得られたランダイスギ化石を含む化石群集の分類学的な研究の結果を学術論文として出版した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、種子島の下部更新統増田層形之山部層から採集したブロックサンプルからの大型化石の抽出と同定作業を進めた。また、花粉については、同層の泥岩層の連続セクションから2cmピッチで試料を取り出し、花粉分析を行った。さらに、種レベルでの同定のため、SEMでの詳細な表面観察を行った。大型化石の分析結果から、類縁の不明なものも含め約50種を認めた。もっとも多産したのはクスノキ科のタブノキ、ブナ科のシラカシ、ウバメガシ、マツ科のクロマツおよびヤクタネゴヨウ類似種で、さらにヒノキ科のランダイスギ類似種、スギ、ブナ科のタイワンブナ類似種が続いた。また、量的には少ないものの、照葉樹林の構成種であるブナ科のマテバシイ類似種やアカガシ、アラカシなどを含んでいた。一方、マツ科のツガ、モミ、トウヒ属、ヒノキ科のネズコ、イチイ科のイヌガヤなど温帯性針葉樹の葉や球果、種鱗片などがわずかに認められた。花粉分析結果も大型化石の結果と整合的で、マツ属とスギ属が最も多く、ついでブナ属、コナラ属アカガシ亜属、ウバメガシ類、シイ類花粉が多く、モミ属、ツガ属およびトウヒ属花粉を含んでいた。これらの結果から、現在の屋久島の600-1000m程度の高度の植生との高い類似性が示された。形之山部層堆積当時(約130万年前)は寒冷期であり、現在よりも3~5度程度低い年平均気温が想定される。この結果について、7月に中国深センで開催された国際植物学会議、9月に愛媛大学で開催された地質学会大会で発表した。10月以降は、九州本土の鮮新世ー更新世植物化石群集中の“温暖要素”の存在を確かめるため、大阪市立自然史博物館および熊本県博物館ネットワークセンターにおいて、それぞれ九州南部および北部産の化石群集の再検討を行なった。現在それらの分析を進めているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、形之山部層の化石資料の分析をさらに進める。とくに木材化石の分析が完了していないため、これらについて特に集中的に解析を行い、6月をめどに分類学的な検討を終える。さらに、九州本土の化石群集についての古気候学的検討を進め、台湾に自生する現生種の生態情報から、生態ニッチモデリングを利用した第四紀寒冷期の分布地推測と、化石群集の分布地の比較・考察を行う。得られた成果については論文としてまとめ、年度内に学術誌に投稿する予定である。
|