2016 Fiscal Year Research-status Report
微生物代謝過程を考慮した海洋生物化学循環モデルの開発と原生代海洋環境変動の解明
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16K05618
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田近 英一 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (70251410)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 海洋生物化学循環 / 微生物代謝 / 原生代 / 海洋環境 / モデリング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,原生代の海洋化学組成と微生物生態系の群集構造およびその活動との関係について,海洋生物化学循環モデルを用いて明らかにしようとするものである.貧酸素条件にある海洋での主要生元素の循環に加えて微量生元素循環と微生物代謝過程を詳細に考慮したまったく新しい数値モデルを開発し,当時の海洋一次生産性とその律速因子および微生物生態系の群集構造,ひいては大気海洋酸化還元状態の安定性の解明を目指す. 当該年度においては,微量生元素として最も重要な鉄について,そのモデル化を試みた.まず,還元的海洋中で蓄積した溶存態2価鉄が,海洋有光層に達した場合に酸化鉄へと酸化される過程を計算するスキームをモデルに導入した.この際,酸化鉄がリンを吸着除去する特性に着目し,海洋有光層でリン枯渇が生じることを数値実験において確認した.この結果は,鉄に富んだ原生代海洋中での生物生産律速因子としてのリンの重要性を示すものであり,当初の仮説を支持している.この結果を踏まえ,より詳細な海洋鉄循環を扱うスキームの開発を行った.具体的には,水柱での酸化鉄の沈降過程や,鉄還元反応,黄鉄鉱の形成反応などである.これらについては,計算時間等の問題があることが判明したので,数値解法の安定性や計算コストの削減方法の検討を行っている. 一方で,次年度に実施予定であった海洋生態系モデルの開発にも着手した.メートルスケールの空間解像度で,海水の酸化還元状態や栄養塩状態に応じた生態系構造や主要元素の物質循環を模擬可能なモデルの開発に成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
溶存態鉄が海洋表層で酸化され,それに伴い形成された酸化鉄にリンが吸着除去される過程はモデル化し,すでに計算結果も得られている.したがって,海洋鉄循環についてのモデル開発の第一段階は順調に進んでいる.ただ,他のいくつかの海洋鉄循環プロセスについては,扱うべき化学反応系の方程式の性質上,現実的な計算時間で安定に計算可能な数値解法の模索が必要なことが判明した.それについては引き続き次年度の課題とする. その一方で,当初は次年度に実施予定であった海洋生態系モデルの開発にも着手し,すでに基本的なモデル構造の開発を完了した.今後,海洋有光層内の酸化還元条件や栄養塩濃度に応じた生態系構造や主要元素の物質循環について数値実験を行う予定である. 以上のことから,全体としてはおおむね順調に進展しているものと判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
海洋鉄循環モデルの開発において、安定かつ低計算コストが実現可能なスキームの導入や、取り扱う反応系の精査,近似手法の導入等の検討を行う.有効なスキームを導入できるかどうかが、本研究全体のパフォーマンスを左右するため、これについては慎重に進める.これとは別に、より簡略化した海洋鉄循環を模擬可能なモデルを開発することで,本研究で目的とする海洋鉄循環について,その大局的な挙動の考察を深める. 当該年度に開発した海洋生態系モデルでは,海洋一次生産者であるシアノバクテリアや藻類のほか、絶対嫌気性の緑色硫黄細菌も考慮し,還元的な条件にある有光層での生態系構造と物質循環を議論可能である.今後は、鉄酸化光合成細菌や鉄還元菌など,微量生元素循環に関与する生態系も考慮したモデルへと拡張を進める.
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Causes of Carryover |
平成28年度に計画していた,プログラミング作業を行うための学生の雇用をせずにすんだことと,連携研究者の招聘旅費が当初予想よりも安く済んだことにより,次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度(平成29年度)夏頃に購入予定の計算サーバについて,当初計画よりも高いスペックのものを購入可能となるため,平成29年度予算と合わせて使用する計画である.
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