2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K05625
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
山本 正浩 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 深海・地殻内生物圏研究分野, 研究員 (60435849)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 深海熱水噴出孔 / 電気化学 / 化学進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
海中電気化学計測技術を用いて深海熱水噴出孔周辺の電気特性の解析を行うとともに、現場の物理・化学特性の解析を現場計測および回収した試料を用いた実験室計測を行った。これらを比較することで、物理・化学条件から熱力学計算によって導かれる電気特性が、実測で得られた電気特性と近い値をとることが示された。すなわち、生命誕生以前の古代の環境中の電気特性を当時の物理・化学条件から予測可能であることを裏付けることができた。 電気化学セルを用いて、古代の熱水噴出孔周囲の環境に近いと推察される電気条件を構築し、各種の電気化学反応を行った。生成物を計測することにより、それぞれの反応の進行を計測した。その結果、生体内に不可欠である、ある種の有機酸の還元反応、およびアミノ基付加反応が生体触媒なしに効率的に進むことが確認された。これにより、有機化合物の前生物的な原始代謝の一部が電気的に進行し、生物のビルディングブロックが供給され得ることが強く示唆された。一方で、炭酸固定反応やチオエステル生成反応などを電気的に効率的に進行させることは現在までに明確には確認できておらず、さらなる条件検討、あるいは異なるメカニズムの共存の可能性を探る必要性が生じている。 電極に関して複数の材料で検討を行った。ある種の反応において硫化鉄が進行に有利に作用することが確かめられたので、その結晶構造や組成比の分析を行った。しかしながら、なぜその素材が反応を有利に進行させるかのメカニズムについては不明であり、今後の検討課題としたい。また、ニッケルやモリブデンの添加の効果を確かめる実験を行ったが、今回行った反応系においては明確な有意差を確認することができなかったので、今後はより広範な条件検討を行いたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海中電気化学計測技術を用いて深海熱水噴出孔周辺の電気特性の解析を成功させることで、古代の環境中の電気特性を当時の物理・化学条件から予測可能であることを裏付けることができ、当時の電気条件の再現の妥当性が確かめられたことは大きな成果である。 いくつかの重要な生化学反応を電気化学セル内で進行させられたことは、深海熱水発電現象が化学進化に寄与した可能性を強く示唆するものであり、大きな成果と言える。特に代謝の鍵となる最重要反応については今のところ電気化学による進行は観察されていないものの、これらの反応の進行が困難なことは研究を開始する前から判っていたことなので、研究期間内に何らかの良い結果が得られれば全体として大きな成功と考えている。 熱水噴出孔の主要な成分である硫化鉄がある種の電気化学反応に有利に作用する現象が観察されたことは非常に興味深く、今後の展開が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに深海熱水噴出孔周辺の電気特性を計測し、その値が理論計算と大きな差異がないことを確認してきた。一方で、現生の深海熱水噴出孔周辺の環境は古代のそれとは大きく異なるため、電気化学的な振る舞いにおいても大きく異なり、それを理論計算だけで保証することは危険である。そこで可能な限り古代の環境と近い条件の熱水噴出孔(アルカリ熱水噴出孔など)の現場電気化学計測を行うこと、さらには人工的に古代の熱水システムを再現しその電気特性を計測することを計画している。これにより、古代の熱水噴出孔の電気化学特性をより正確に再現できるようになると期待できる。 電気化学反応実験についてはこれまでと同様に各種の有機化学反応について検討を加えながら計測を進める。マイクロフローデバイスの利用により温度や圧力などの物理条件を制御しやすい電気化学セルを構築することにより、進行の困難な鍵反応に関しても有効な条件検討を行っていく予定である。 電極素材についても引き続き検討を行う。すなわち、素材の組成などを変えながら反応生産性の変化を観察する。更に平成29年度からは電極素材以外にもプロトン交換膜としてシリカ化合物の利用の検討も加える計画である。これにより、より古代の熱水噴出孔環境に類似した条件での電気化学反応が行えるようになり、電気化学進化説の真実性を高められると期待できる。 平成28年度の成果について論文をまとめ公表することを目指す。
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Causes of Carryover |
研究スケジュールの都合上、学会への参加を見合わせた結果、旅費計上分が未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
電気化学実験の消耗品(セル・電極・ケーブル・コネクタなど)、化学反応と分析の消耗品(有機化合物・HPLC移動相など)を購入する。また、マイクロフロー電気化学セルの作成を行う。 野外実験の旅費、および学会発表等の旅費として使用する。
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Research Products
(2 results)