2016 Fiscal Year Research-status Report
高精度テラヘルツ分光測定によるさまざまな水分子のダイナミクスの解明
Project/Area Number |
16K05642
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
服部 利明 筑波大学, 数理物質系, 教授 (60202256)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | テラヘルツ波 / テラヘルツ分光 / 水和 / 水和水 / 水溶液 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,さまざまな水溶液やその他の水を多く含む系に対して,おもにテラヘルツ分光測定を用いることによって,これらの系において,溶質などの分子と水分子との相互作用の様子とその多様性を明らかにすることである。今年度は,以下の系について研究をおこない,それぞれ重要な成果を得た。これらの結果より,本研究の研究手法が水和の研究に対して非常に有効であることが,改めて示された。また,レーザーの安定化を含む測定系の改良をおこない,利用性の向上と,より高い測定精度を得た。 1.無機酸(HCl)と無機塩基(NaOH)の水溶液,またそれらを混合して中和させることにより得られる中性電解質水溶液のテラヘルツ分光測定をおこない,水溶液中で水素イオンと水酸化物イオンの水和について研究した。その結果,これらのイオンの周りの水和水の量などについて,新しい知見を得た。 2.ポリエチレングリコール等の高分子の水溶液についてテラヘルツ分光をおこない,その濃度依存性の結果から,高分子間の相互作用,水素結合などの高分子と水との局所的な相互作用だけではなく,高分子の構造と水の水素結合ネットワークの構造が,水和に大きく影響することが見出された。 3.ヒトの皮膚の真皮層について,予備的な測定をおこなった。試料の切断・冷凍・解凍等の扱い手順の標準化,水分量の制御方法を確立した。 4.テラヘルツ分光においては,空気中の水蒸気によるテラヘルツ波の強い吸収を排除するために,乾燥した環境が必要である。これまでは液体窒素を蒸発させて得られる乾燥窒素を用いていたが,数時間を超える測定ができないという問題があった。長時間測定を可能とするために,乾燥空気製造装置を作製し,これをテラヘルツ時間領域分光装置に組み込んだ。これにより,長時間の連続測定が可能となり,同一の試料に対して水分量を徐々に変化させるなどの,時間のかかる測定が可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に当初計画していた研究対象は,無機電解質水溶液と,アルコール水溶液であった。このうち,無機電解質水溶液については,十分な成果を上げることができた。アルコール水溶液については,研究が遅れているが,当初次年度に予定していた高分子水溶液について重要な成果が得られ,また次々年度に予定していたヒト皮膚についても重要な進捗が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
おおむね当初の計画のとおり研究を推進する。年度ごとに計画していた研究対象と実際の進行状況にずれがあるが,最終的に計画の主要な部分が実行できるように進めていく。
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Causes of Carryover |
当初予定していた海外学会での発表を取りやめたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H29年度に,海外での学会発表に使用する。
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