2016 Fiscal Year Research-status Report
ヘリウムフリー・STM単一分子分光法の開発と有機半導体分子の電子状態計測
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16K05656
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山田 剛司 大阪大学, 理学研究科, 助教 (90432468)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / 有機半導体 / 非占有準位 / 2光子光電子分光 / 単一分子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて単一分子の電子状態計測を行う際、熱ノイズ、熱ドリフト等、熱に起因する様々な問題を避けるため、STM本体を液体ヘリウムで冷却した極低温環境が必要不可欠とされてきた。本研究では液体ヘリウムを使用しないSTM単一分子分光法の開発を試み、固体表面上に吸着した有機半導体分子の電子状態を単一分子レベルから評価できるようにすることを目的としている。本申請で提案した手法による単一分子分光が可能となれば、従来の極低温STM単一分子分光で求められてきた敷居をかなり下げられることが期待される。さらに、従来の極低温・走査トンネル分光(STS)では計測できなかったエネルギー領域において、有機半導体分子の電子状態を議論できるようになることを目指す。 今年度は、単一分子計測の実行にさきだち、2次元薄膜の作成と、それを用いた局所スペクトル計測を行った。具体的には、局所スペクトルの取得前にSTM像を連続取得し、試料の熱ドリフト量とドリフト方向の見積もりをおこなった。局所分光では、距離(z)-電圧(V)依存性から電子状態を計測する手法を開発し、電子状態の2次元マップを作成する手法を検討した。特にフェルミ準位から離れたエネルギー領域での電子状態計測に重点的に取り組み、光電子分光の結果と比較・議論を行った。 具体的には、典型的な有機半導体である、ルブレンによる超薄膜を作成し、zV分光を適用した。物理吸着した分子の非占有準位(LUMO)や、非占有・表面鏡像準位(IPS)の測定に成功している。探針-試料間にかかる局所電場効果(いわゆるシュタルク効果)を定量的に評価し、zV分光で計測された局所電子準位は巨視的スケールで取得した光電子分光の結果とも良く比較できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最終的には単一分子分光までを行うことを目標とするが、本年度はそれに先立つ形で2次元超薄膜に適用し、本課題で提案した計測手法(zV分光)が有効である道筋を示すことができた。
また、巨視的な計測手法である2光子光電子分光との比較を同一計測対象で行い、局所分光の結果と比較を行った。有機薄膜作成については、蒸着源を自作し、低速電子線回折を併用して構造の決定を行うことができた。以上の結果より、単一分子分光の実現に向けて、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
局所分光と、巨視的な計測手法である2光子光電子分光との比較を同一計測対象で行ったが、絶対値が同一となる結果は得られていない。これは予想された結果ではあるが、STM局所分光時の探針ー試料間にかかる電場効果によるものが大きく、計測が行われている際の電子数も考慮に入れる必要がある。例えば、中性励起状態での電子状態見ているのか、正・負イオン状態をみているのか、といった系における電子数の差がどの程度電子状態に関与するのかという点は自明ではない。一般的に、吸収分光や、トンネル分光では中性励起状態、光電子分光では正イオンにおける終状態をみていると考えられる。この点に関し、さまざまな実験手法で得られた結果を丁寧に比較・検討していく必要がある。 また、本研究で提案した手法では、原理的には室温でも実験を行うことができ、極低温分光のように、冷媒補充のための時間制約が測定時間の上限となることが事実上無くなる。次年度以降は、低温という条件に限らず、様々な温度条件での実験を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
市販品を購入すると、かなり高価となる蒸着源などを自作することで予算を節約することができ、結果、自作に要する材料費のみを計上したため、当初計画と比べて物品費に余剰が生じた。旅費・消耗品など、その他の予算については計画通り使用している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
経年劣化した実験装置・計測装置の入れ替えを検討し、効率よく分光データ取得できるように装置構成の組み替えを行うなど、前年度余剰予算の有効活用を図る予定である。また、研究成果が順調に出ているため、成果公開のための学会参加旅費・論文投稿時の英文校正費用などには重点的に配分する予定である。
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Research Products
(20 results)