2016 Fiscal Year Research-status Report
熱力学量を正確に計算することを目指したOZ理論の改良
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16K05659
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
宮田 竜彦 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 講師 (70390648)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 熱力学量 / OZ理論 / LJ流体 / 動径分布関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、Lennard-Jones(LJ)溶媒中へLJ溶質を挿入する際の溶媒和自由エネルギー(SFE)に関して、Ornstein-Zernike(OZ)積分方程式理論における各種近似の影響を調べた。溶媒が比較的高密度のとき、HNC近似およびKH近似はSFEを顕著に過大評価する。溶質サイズが比較的大きいとき、PY近似はSFEを過小評価する。VM近似は比較的正確である。また2016年度中にKGKと呼ばれる近似法が新たに提案されたため、この精度に関しても調べた。KGK近似は高密度条件下でSFEを過大評価する。SFEの誤差は、動径分布関数の立ち上がり部(斥力領域)の誤差に起因する。この部分を補正するだけでSFEの精度は劇的に改善し、また補正方法にもかなりの自由度がある。本研究では、LJポテンシャルのσパラメータを見掛け上調節するという方法(SEB補正)を採用した。SEB補正におけるσパラメータの補正量を見積もる方法として、一般にはMDシミュレーションの結果へフィッティングする方法がある。一方、1成分のLJ流体に対しては、ビリアル圧力と圧縮率方程式から求めた圧力の矛盾をなくす方法が有効であることを示した。以上の成果の一部はすでに論文として出版したが、残りについても論文投稿直前である。また2016年度中に溶質分子を等核2原子分子へと拡張する作業を開始した(数値計算用のプログラムは完成している)。SEB補正におけるσパラメータの補正量を、単原子分子に対する補正量から見積もることができるかどうかという点に注目しながら、計算を進めている。動径分布関数の微分の精度に関しては、温度微分に関する結果を論文として出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
LJ溶媒中へのLJ溶質挿入に関するSFEの補正法については当初の計画通り、本年度中にほとんどの結果が出た。溶質を2原子分子へ拡張する作業も順調に進んでいる。当初の計画以上に進展したのは、動径分布関数の微分の精度に関する調査である。温度微分に関してはすでに論文が出版された。密度微分に関してもほとんど結果は出ており、論文投稿直前と言える状態である。また、本年度中に提案されたKGK近似に関しても、動径分布関数の微分の精度が調査済みである。温度微分および密度微分に関しては、熱力学的状態方程式が満足されるかどうかという観点でも精度を調べた。HNC近似、KH近似、KGK近似は、動径分布関数の微分にかなりの誤差があるにも関わらず、非常に高い精度で熱力学的状態方程式が満足されることがすでに判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、溶質を等核2原子分子に拡張した場合と、溶媒を等核2原子分子に拡張した場合の双方で、SFEの精度を調べる。特に、SEB補正におけるσパラメータの補正量が単原子分子用の補正量から予測できるかどうか(補正量の移植可能性)について中心的に検討する。その際、RISM近似の影響についても調べる。動径分布関数の微分の精度に関する研究では、成果をまとめ、論文として発表する。
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Causes of Carryover |
国際会議への旅費が当初想定していた金額より高かった(為替の影響も考えられる)ことから、若干の差異が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究成果を電子的に保存する目的で外付HDDを購入して利用している。当初計画との差異は外付HDDに換算すれば1個未満の金額であり、この差異はそのまま翌年度の物品購入に用いる。
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