2017 Fiscal Year Research-status Report
分子内トンネル現象における逆同位体効果の解析に向けた半古典的経路積分法の開発
Project/Area Number |
16K05663
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
河津 励 国立研究開発法人理化学研究所, 戎崎計算宇宙物理研究室, 協力研究員 (00447913)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | トンネル効果 / 経路積分法 / 半古典近似 / 量子化学 / 分子動力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、以前から行っていた、電子状態密度汎関数法と経路積分分子動力学法を組み合わせて用いた応用計算である、水素内包フラーレン分子(H2@C60)のフラーレンケージ内部磁場における量子揺らぎの影響に関する論文の作成と、そのための追加計算を主に行った。経路積分分子動力学法は分子構造の量子揺らぎの効果を熱揺らぎと同様に分子の物理量計算に導入する手法である。この論文では、分子構造量子揺らぎの影響が、従来よく議論されてきたような軽い原子核を持つ水素原子の関与する場合だけではなく、フラーレンケージに見られるような軽い元素を含まないπ電子系の量子ゆらぎでも現れることを計算により示した。電子状態のエネルギー準位やπ電子の環状電流(特にフラーレンのような球状分子の場合は球状電流と呼ばれる)の変化を通して、フラーレンケージ内部の磁場の大きさに影響を与えることがわかった。軽い元素を含まないと言いつつ、この計算にはフラーレンケージ内に水素分子が入っているが、水素分子の主な役割はケージ内部磁場のプローブとなっており、同様の核磁気共鳴の実験と比較のために入っている。論文は最終的に英国王立化学会のPhysical Chemistry Chemical Physics (PCCP)誌に掲載された[Phys. Chem. Chem. Phys., 2018, 20, 1673]。 その他、開発している半古典経路積分インスタントン法プログラムについて、前年より引き続き半古典経路積分法と分子動力学法を結合した場合のアルゴリズムに関する実装についての考察と選定、組み合わせるベースプログラムの確認を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本プロジェクトに対するエフォート率の低下および、論文の再投稿などに想定外の時間がかかったことにより、プログラム開発などに影響が出た。また、この期間は購入予定だったスパコンの入れ替え時期と重なり予定の計算資源を確保できなかったことも影響している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に関しては、プログラム資源の整備や応用計算を行った一方で、予定されていたアルゴリズム自体を実証するためのプログラムの完成にはまだ至っていない。このため、計算時間のかかる分子系への応用計算については圧縮し、アルゴリズムおよびプログラムの構築と実証を優先する。
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Causes of Carryover |
計算時間を購入する予定だったスパコンが入れ替え時期にあたり稼働していなかったため、予定の半分の時間しか購入できなかった。また、入れ替え後に単位当たりの計算機の性能が向上した半面、購入単価が上昇したため、その購入資金として次年度の購入用に多めに確保した。以上の理由で、経費の一部を次年度に持ち越した。
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