2016 Fiscal Year Research-status Report
高精度電子カップリング計算による生体励起エネルギー移動の解明
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16K05670
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Research Institution | Hokuriku University |
Principal Investigator |
藤本 和宏 北陸大学, 薬学部, 講師 (00511255)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 量子化学 / 生物物理 / 励起状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
励起エネルギー移動(EET)に関する理論的研究はこれまでに数多く行われてきたが、電子カップリング(光励起・脱励起に関わる電子の相互作用)の計算が可能な系しか研究対象とされてこなかった。これに対し、私は電子遷移密度を用いたTDFI法や遷移多極子を用いたTrESP-CDQ法を考案し、従来法の双極子・双極子近似では計算できなかった系への適用を可能にした。 これまでのTrESP-CDQ法では溶媒やタンパク質といった環境の効果を取り込むことができなかったが、多層QM/MM法の導入によってこの問題を解決した。また、従来のTDFI法やTrESP-CDQ法では色素の電子状態を用いて電子カップリングを計算していたが、色素の振動状態も考慮に入れることにより振電カップリングも記述できるよう理論を拡張した。こうした手法をハミルトニアン行列の行列要素の計算に使用することで、大規模系に対する励起状態計算を可能とした。 本手法をザントロドプシン(XR)へ適用した。XRはレチナールタンパク質の一種であり、XRに存在する2つの色素(カロテノイドとレチナール)の間でEETを起こすことが知られている。通常のレチナールタンパク質では観測されないCDスペクトルの形状(負と正のコットン効果)をXRは有していることから、CDスペクトルに対するEETの影響が議論されてきたが、その理由は明らかになっていない。本研究ではTDFI法を用いてXRの励起状態を求め、そこからCDスペクトルを計算した。その結果、負と正のコットン効果は振電カップリングを含めることで出現することが明らかとなった。更なる解析により、2つの色素間における電子カップリングが負値であることが、XRのCDスペクトル形状の起源であることを突き止めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1、TrESP-CDQ法を多層QM/MM法と組み合わせることで、溶媒やタンパク質といった環境の効果を取り込んだ電子カップリング計算を可能としたため。 2、電子カップリングだけなく、振電カップリングも計算できるプログラムを作成したため。 3、本研究で作成した手法が実際の生体分子であるザントロドプシン(XR)へ適用でき、さらに計算結果からCDスペクトルに対する振電カップリングの影響について解析することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請書に記入した内容に従って今後も研究を行う予定である。予定していたプログラムの作成は現在までにほぼ終え、また実際の生体分子であるザントロドプシンへの適用も完了したことから、今後はできるだけ応用計算へ注力したいと考えている。光合成アンテナタンパク質に関する研究を行う際、タンパク質構造の最適化に時間を要する可能性があるため、できるだけ効率よく研究を遂行したいと考えている。
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Causes of Carryover |
その他の経費の使用を予定していたが、それが無かったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
論文の別刷代に使用する。
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