2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K05681
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松野 太輔 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80749143)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | グラフェンナノリボン / ナノカーボン / らせん構造 / 超分子 / 自己集合 / 原子欠損構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,「原子欠損グラフェン構造による "twisted ribbon" 型らせん構造の誘起」という戦略によりらせん状グラフェンナノリボン分子という新たな化合物群の構築・機能探索を目指すものである.当初,以下の4つの研究項目を掲げた.すなわち,(項目1) リボン分子の合成と構造解析,(項目2) 超分子集積体の形成,(項目3) 有機合成反応への応用,(項目4) 有機分子デバイスへの応用である.研究二年目の本年は,初年度に引き続き,項目1と2の検討を進めた.今年度は,初年度から継続して合成・構造解析を検討してきたリボン分子について成果をまとめ,Organic Letters誌に報告した.ジベンゾクリセン二分子を環状に連結した,6か所のヘリシティを有する分子の合成法を確立し,溶液中での会合挙動とらせんの反転挙動を実験的に明らかにしたものである.さらに,理論計算を用いることで,らせんの反転挙動は,リボン分子末端から1つずつ反転するような経路をとることが示唆された.この傾向は更に長いリボン状分子でも同様であると考えられ,興味深い.また予想外なことに,会合挙動とらせん反転挙動には興味深い関係性がみられた.分子の会合によりらせんの反転が遅くなる現象が観測されたものである.らせん構造の安定性を分子間相互作用により制御することができたということであり,今後様々な応用が期待できる.さらに,らせん状のキラリティを有するチューブ状分子の超分子化学についても検討を進め,項目2の超分子集積体の形成に関して重要な知見を得た.すなわち,末端構造の異なる二種類のチューブ状分子とダンベル状フラーレン二量体の組み合わせによる超分子錯体の形成に成功し,これを Angew. Chem. Int. Ed. 誌に報告した.らせん性を持つ超分子形成の分子構造と熱力学の相関について重要な知見を得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初に掲げた計画では,(項目1) リボン分子の合成と構造解析,(項目2) 超分子集積体の形成,(項目3) 有機合成反応への応用,(項目4) 有機分子デバイスへの応用,の4項目のうち,二年目以降は項目2-4に注力する計画であったが,実際には主に項目2の超分子集積体の形成に主眼を置いて検討を進めた.当初計画していた項目3,4については着手が遅れているものの,(項目2)の進展は著しい.すなわち,リボン分子の溶液中での会合挙動の詳細を明らかにすることに成功するとともに,さらにリボンのらせん構造の反転に強く影響することが明らかになった.これは当初全く予期していなかった現象であり,らせん状リボン分子の合成に成功して初めて明らかになった成果であるといえる.また,らせん状のキラリティを有するカーボンナノチューブ分子の超分子錯体形成からは,興味深い構造-熱力学相関に関する知見を得ることができた.この成果は,超分子化学のみならず,分子機械などナノテクノロジーの分野にも波及効果が期待できる成果である.以上より,元の計画から若干の方向転換はあったが,全体としては「当初の計画以上に進展している」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,今年度までの検討で明らかになった超分子会合について更に知見を深めるべく, (項目2) 超分子集積体の形成,の解析をさらに進めていく.特に,結晶構造解析などを活用した,超分子集積体の詳細な分子構造の解明が興味深いと考えている.らせん状リボンの会合体はさらなる高次のらせん構造を生じる可能性もあると考えられ,バルクの物性にも得意なものが現れる可能性もあり興味深い.現在までのところ結晶構造は得られていないため,様々な結晶化条件を検討するなどして単結晶の作製を目指す.また並行して,新たならせん状グラフェンナノリボン分子群の設計・合成も進め,この構造モチーフに特有の物性や構造を明らかにしていく.(項目2)が予想外の展開を見せているため,ここに主眼をおいて研究を進める予定ではあるが,当初予定していた課題でもある(項目3)有機合成反応への応用,(項目4) 有機分子デバイスへの応用の検討にも着手しようと考えている.
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Causes of Carryover |
計画にやや変更があったこともあり,予定よりも試薬・物品等の支出額が少なくなったため.次年度使用額は試薬・物品費として使用する予定である.
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Remarks |
物理有機化学研究室 http://www.chem.s.u-tokyo.ac.jp/users/physorg/Main/Top.html
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Research Products
(9 results)