2017 Fiscal Year Research-status Report
[2.2]-パラシクロファン類の触媒的不斉合成法の開発と不斉合成素子としての利用
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16K05685
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
森 啓二 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10515076)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | パラシクロファン / 面不斉 / 有機触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
様々な医・農薬中に頻繁にみられる不斉情報を制御する不斉合成反応の開発は、現代有機化学における重要課題の一つである。その中でも、不斉制御の鍵となる新たな触媒の開発は大きな関心を集め、これまでに様々な不斉配位子・触媒が開発されてきた。これまでの研究の多くが、安定な軸不斉を持つビナフチル類に焦点をあてており、同様に安定な不斉情報(面不斉)を持ち、強固な不斉場の構築が期待できる[2.2]-パラシクロファン類の不斉触媒への応用例は少ない。これは、パラシクロファン類の不斉合成法およびその合成的変換法が未発達であることに起因する。このような背景のもと本研究では、[2.2]-パラシクロファン類の触媒的不斉合成法の開発とそのキラル素子(不斉有機触媒、不斉反応剤)としての利用を目的とした。 まずは研究推進の大きな鍵である[2.2]-パラシクロファン類の触媒的不斉合成法の開発を目指し研究に取り組んだ結果、金属元素を含まない環境調和型の触媒として注目を集めているキラルリン酸触媒を用いることで、[2.2]-パラシクロファン類のジヒドロキシ類縁体(PHANOL)が高い立体選択性で合成できることを見出した。本反応においては二つのヒドロキシ基の存在が重要であり、これにより高度な立体選択性が達成できていることを突き止めた。 また、当該骨格を用いた不斉触媒化の初期検討として誘導化に関する検討を進めた結果、その取り扱いに関する幾つかの有望な知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに研究推進の鍵となる[2.2]-パラシクロファン類の触媒的不斉合成において、キラルリン酸触媒による速度論的光学分割を伴うアシル化反応が効果的に機能することを見出している。そこで本年度は、基質一般性の検討、ならびにその不斉素子としての有用性を明らかにすることを目指し、研究に取り組んだ。基質一般性に関する検討を進めた結果、本反応の基質適用範囲は極めて狭いことが分った。すなわち、[2.2]-パラシクロファンのジヒドロキシ体であるPHANOLに関しては、90% ee以上の極めて高い選択性が達成できる一方で、一つのヒドロキシ基を持つものや一方のヒドロキシ基を保護した基質では選択性は低い値にとどまった(<30% ee)。以上のことから本反応では、反応基質の二つのヒドロキシ基と触媒、および酸無水物との間での高度な水素結合ネットワークの形成が、高い選択性の達成に関与していることを明らかとした。 さらに当該骨格の誘導化に関しても検討を行ったが、[2.2]-パラシクロファンの特異な骨格のためか、幾つかの問題点に遭遇した。すなわち、骨格の対称性の高さゆえに有機溶媒に対する溶解性が低く、使用できる溶媒が限定的であること、また、様々な類縁体を合成するためにベンゼン環の反転作業が必要となるが、それには200度以上と実験室で行うには非常に高温での作業を、しかも長時間必要とすること、である。このうち、後者に問題に関しては、マイクロウェーブ反応装置を用いることで解決できることを見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度の研究で触媒的不斉合成法の基質適用範囲の解明、ならびに合成上の問題点を洗い出すことができたので、H30年度は不斉合成可能な[2.2]-パラシクロファンのジヒドロキシ体、PHANOL誘導体を原料とした、この骨格ないしは派生した骨格を持つ不斉触媒の合成・活性評価に精力的に取り組む。開発した触媒的不斉合成はスケールアップも可能ではあるが、まずはラセミ体の原料を用いて誘導体合成の実行可能性を探るところから研究を開始する予定である。その検討で得た合成的知見をもとに、開発した手法で得た光学活性なPHANOLを用いた各種触媒の不斉合成、ならびにその活性評価を行う。特にその際、これまでに不斉合成において多くの実績があり、また得られる生成物の高い合成的価値(医薬品合成への展開など)が期待できる、ニトロスチレンとインドールとの不斉Michael反応やHantzschエステルを用いたニトロスチレンの不斉還元反応をモデル反応に設定し、検討を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
当初、本反応は様々な誘導体に展開できる可能性を秘めていると考えていた。しかし、[2.2]-パラシクロファンのジヒドロキシ体であるPHANOLにしか適用できないことが判明し、基質検討に要する予算を削減できた。そのため、翌年からの不斉触媒化に注力すべく大きく予算を次年度に繰り越すこととした。 H30年度は前年度の繰越金を合わせた研究費を以下の内訳で使用する予定である。すなわち、様々な基質検討に関わる原料合成用試薬や溶媒、ガラス器具の購入費(消耗品費)として300万円、研究代表者の触媒化学に関する知識をさらに広げるための学会参加費として20万円、学内の測定装置の使用に関わる経費として25万円を使用し、研究を強力に推進していく。
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