2017 Fiscal Year Research-status Report
光活性化に基づく新規スーパー有機ドナー試薬の開発と触媒化
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16K05689
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
長谷川 英悦 新潟大学, 自然科学系, 教授 (60201711)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 有機電子水素ドナー / ベンズイミダゾリン / 可視光活性化 / メタルフリー還元 / ベタイン光触媒 / 光機能材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,メタルフリー(希少高価な遷移金属非使用)反応手法が有機合成化学分野でも重要視され,多彩な分子設計が可能な有機試薬・触媒に注目が集まっている。酸化還元は基本的な化学反応過程であり,高い電子・水素供与性を有する有機分子は有効な還元試薬として働くことが期待される。ベンズイミダゾリン(BIH)は,酸化還元補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)と類似の酸化反応特性を有する人工の電子・水素供与体である。したがって,BIHと酸化体BI+は,NADHとNDA+と類似の還元・酸化対(レドックスペア)とみなせる。一方,ヒドロキシ基を有するHOR-BIHは有機合成で汎用されるHantzschジドロピリジンと同様の二水素供与体と見なせるが,HOR-BIHと-OR-BI+がブレンステッド酸と共役塩基部位を有する点は,Hantzschジドロピリジンとピリジンとは際立った違いである。特に,Hantzschピリジンは安定中性分子であるが,-OR-BI+はルイス酸・塩基性と電子受容・供与性を併せ持つ特異な分子である。以上の背景を踏まえて,BIHおよびHOR-BIHのユニークな特性を生かした電子移動過程を基軸とする有機レドックス化学の創成を目指す基礎および応用研究を推進している。本研究では,BIHに光捕集部位として縮合芳香環(Ar)を置換したAr-BIHおよびヒドロキシ基を置換したHOAr-BIHの特異な酸化反応特性を生かしたメタルフリー還元法の新展開を目指して,可視光で駆動する新規光試薬および光触媒の開発研究を計画・実行している。H29年度は,前年度課題の継続発展と新規課題に取り組み,光活性化ナフトール置換体(HONap-BIH)による還元反応の適用基質の拡張を達成した。また,新たなベタイン(-OR-BI+)光触媒の開発と新規触媒サイクル構築法の開発に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
H29年度の研究室人員(大学院修士学生1名,学部4年生4名)を踏まえて,当初研究計画を絞りこみ, 可視光活性化HOAr-BIHによる光還元反応とベタイン(-OAr-BI+)光触媒反応を中心に研究を進め,以下の成果を得た。(1)可視光活性化ナフトール置換体(HONap-BIH)によるαケトスルホンの脱スルホニル化を達成した。また,フェノール置換体(HOPh-BIH)のHO位置異性体の光還元試薬活性序列o-体>p-体>m-体を見出した。(2)BIHと酸素分子協働反応系の開拓を目指して,HONap-BIHとαケトスルホンの光反応を空気下で行い,脱スルホニル化を伴うα酸素化を観測した。次に,αブロモケトンをPh-BIHと室温空気下で反応させると光照射なしでも良好な収率でαヒドロキシケトンへ変換できることを見出した。さらに,加熱条件でAr-BIHによるN-トシルベンズアミドの脱スルホニル化も達成した。(3)ナフトキシドベタイン(-ONap-BI+)の特異な溶媒効果に対して,溶媒のルイス酸性と塩基性をアクセプター数とドナー数で評価して,溶媒とベタインの-ONap部位(ルイス塩基)とBI+部位(ルイス酸)の選択的相互作用による光触媒活性の制御という新たな作業仮説を提案した。さらに,フェノキシドベタイン(-OPh-BI+)も光触媒能を有することを見出した。この中で,光触媒サイクル構築法として通常の電子移動に基づく手法(電子移動法)に加えて,ベタインのヒドリド化により強力電子ドナーの-OAr-BIHを系内発生させる新手法(ヒドリド法)の開発に成功した。(4)-ONap-BI+は溶液中で無蛍光であったが,固体状態で発光することを発見した(蛍光量子収率~20%)。上記(2)と(4)は当初計画にない新展開である。以上の状況を総合的に評価して,(1)と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度の研究室人員(大学院修士学生4名,学部4年生3名)を踏まえて,以下の課題を設定した。H28,29年度の成果を踏まえた継続課題として,(1)Ar-BIHおよびHOAr-BIHの有機合成試薬としての有用性向上を目指して,光活性化または熱活性化,および塩基活性化(HOAr-BIHの場合)による有機官能基の還元により発生するラジカル中間体の結合形成反応に取り組む。具体的には,αヘテロ置換(ハロゲン,スルホニルなど)カルボニル基質から生じるαカルボニル炭素ラジカルおよび窒素ラジカルの捕捉反応(酸素分子,ルケンなど)を行う。(2)ベタイン光触媒(-OAr-BI+)では,電子移動法の協働還元剤をPh-BIHからより一般的な物質への転換,ヒドリド法では新たなヒドリド剤探索と適用基質の拡張に取り組む。(3)H28に開発したHOArとBIHの分子協働光還元試薬の拡張を目指して種々のHOArと-OArを電子ドナーとする光誘起電子移動反応を行う。新規課題として,(4)BIラジカルは供与水素を持たない強力電子ドナーであり,ラジカル中間体の水素化が起こらないため上記(1)の捕捉反応に利用可能と期待されるので,簡便な発生法の開発に取り組む。まず,二量体から発生させる既知法の問題点(毒性・危険金属使用)の改善を行う。(5)電子ドナーアクセプター連結型分子として,新規な-OArまたはアミノアレーン(R2NAr)が置換したBI+とチアゾリウム(BT+)を合成して機能開拓(光触媒,発光物質など)に取り組む。特に,R2NAr-BT+誘導体であるチオフラビンTはアミロイドタンパクの発光検出試薬として知られており,R2NAr-BI+にも発光機能が期待される。以上が現時点での計画であるが,各研究課題の進捗状況を随時確認・評価して,必要に応じて適宜軌道修正を行う。
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Causes of Carryover |
(理由) H29年度の研究室学生5名のうち主力である大学院生は修士2年の1名であり,年度前半は就職活動のため研究は休止状態であった。さらに研究計画の絞り込みにより総実験量が縮減したことで薬品等の消耗品使用量が減少した。また,現有の光照射装置が旧く動作がやや不安定なため,不測の事態に備えて修理費として一定程度額の次年度繰り越しを念頭に研究費の節約に努めた。 (使用計画) H30年度は研究室学生数がほぼ倍増するため(大学院生4名と学部4年生3名)実験量の増加により薬品・溶媒等の消費量増加が予想されるため,まず消耗品費を確保する。また,現有の光照射装置が旧く動作がやや不安定であり故障の場合は修理が必要で,さらに複数の実験装置・器具(ポンプなど)も老朽化しており修理あるいは更新の可能性があるので,それらの経費として一定程度保持しておく。
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Research Products
(7 results)