2016 Fiscal Year Research-status Report
ヤヌス環を持つロタキサンの創製:新しいスイッチング形式の開発と多段階スイッチング
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16K05691
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
徳永 雄次 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (80250801)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ロタキサン / 分子スイッチ / 刺激応答 / 水素結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一の目的である 「水素結合ドナーとアクセプターの両方の性質を有し,それらの性質変換が可能な環(ヤヌス環)を持つロタキサンを合成」について検討した。計画に沿って、まずヤヌス環にはオリゴエチレングルコールと2個のアミドを持つ環部を複数用い、それらを用いたロタキサン合成を検討した。それぞれの環部とアンモニウムイオンを含む軸部からその合成を行い、一部の環でロタキサンの単離に成功した。しかしながら、鍵となるアミドのコンフォメーションが外部刺激により応答することなく固定されており、目的の環部の回転を伴う性質変換について現在まで確認されていない。そこで、次に計画していた、4個のアミドを持つ環状化合物を環部とするロタキサン合成を実施し、収率は高くないものの、ロタキサン合成を達成した。本ロタキサンの構造について核磁気共鳴による解析を行い、非極性溶媒において全てのアミドのカルボニル基が環内部方向に向いたコンフォメーションであることが確認した。予想通りアミドとアンモニウムイオン間の水素結合によってコンフォメーションの固定化が実現した。一方、種々の溶媒を用い同様の実験を実施したところ、極性溶媒に於いて、異なるコンフォメーションを有するロタキサンの存在が示唆された。本コンフォメーション変換は、一部のアミドではあるものの軸・環間の水素結合が溶媒によって切断されたことに由来するものと予想される。これらの事実は、溶媒と言う化学的な外部の環境(刺激)に対する分子の応答であり、本研究の第一の目標である「新しい形式のスイッチング」に相当する現象である。また液性変化に対するスイッチングについても検討したところ、何らかの変化と変化の可逆性は見出されたものの、どのような状態変化に起因しているかは未だに解析できていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請段階で計画した2種類(サイクリックジアミド、並びにサイクリックテトラアミド)のヤヌス環について、その合成を完了した。それぞれの環とアンモニウムイオンを有する軸状化合物とのロタキサン合成(ジアミドロタキサン、並びにテトラアミドロタキサン)についても計画通りに実施し、それらの単離についても成功している。これらのことより、計画したロタキサンの合成について、全て行っていることになる。 続いて目的とする刺激応答に対する新しい様式のスイッチングについての検討であるが、まずジアミドロタキサンを用いて検討したが、目的とする応答は観測できなかった。一方、テトラアミドロタキサンでは、当初、アミドは第1級アミンからなるアミドを用いた場合に於いてのみ新しい様式のスイッチングが観測できるものと予想したが、予期に反し第1級アミンからなるアミドを持つロタキサンであっても期待したスイッチ様式が観測できることが見出され、予想以上の結果が観測された。本年度は、液性等の刺激に対する多段階応答も計画していたが、上述したコンフォメーション変化によるスイッチングの解析に時間を費やしたため、多段階応答については現在まで顕著な結果は得られていない。 以上より、最大の目的である「新しい様式のスイッチング」について、予期しなかった化合物で達成することができたことがプラス要因であり、また「多段階応答」では結果が得られていないことがマイナス要因であり、これらを総合し概ね順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように、ヤヌス環を持つロタキサン合成を種々検討し、溶媒の極性変化に対応した、新しいスイッチ様式を有する分子スイッチングの開発に成功したものの、刺激前後での主生成状態は同じものであり、刺激に対する応答は十分なものではなかった。また、異なる刺激に対する応答についてもその解析が困難となっている。一方で、合成したロタキサンの収率はあまり良いものではなかった。そこで、効率的な合成、高比率でのスイッチングを念頭に、以下のような計画で研究を行う。 第一に、アミド部間をつなぐスペーサー部位を種々検討し、1)高収率でのロタキサン合成法を見出す、2)複数の軸を持つ[3]ロタキサンの合成を検討する。 第二に、第一の結果を基に当初予定していた第1級アミンからなるアミドを用いたヤヌス環によるロタキサン合成を実施する。合成したロタキサンの可逆的なスイッチングに関しても、溶媒極性と液性刺激について検討する。 第三に、上述した結果を基に、軸部の認識部位の変換、例えば、ウレアなどを有する他の軸部からなるロタキサン合成も検討する。本検討は、効率的な合成法を見出すだけではなく、シャトリングと環反転を組み合わせたスイッチングが達成できるため、これらの検討も行う予定である。
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Causes of Carryover |
次の2点である。 第一に、現在までの進捗状況等でも記載したが、当初予定していた第1級アミンからなるアミドを用いたロタキサン合成を行わなかったことで、その経費が余剰となった。しかしながら、その一部を第2級アミンからなるアミドを用いたロタキサンの測定に計上しているので、全額ではない。第二に、論文を作成し、その際、英文校閲の経費を予定していたものの、まだ論文作成中であるためこの経費が残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後の研究の推進方策にも記載したが、当初予定していた第1級アミンからなるアミドを用いたロタキサン合成を行うため、その経費に当てる予定である。また、上述した結果の論文作成に関する経費にも使用する。
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Research Products
(4 results)