2016 Fiscal Year Research-status Report
シリル配位子部分を含むキレート錯体を触媒とした不活性結合変換反応の開発
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16K05714
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小室 貴士 東北大学, 理学研究科, 助教 (20396419)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 遷移金属錯体 / シリル配位子 / ピンサー配位子 / 窒素配位子 / 触媒反応 / C-D結合活性化 / H/D交換 / 重水素化 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 シリル配位子部分と窒素配位子部分(ピリジンおよびアミン)から構成される独自のSiNN型ピンサー配位子L1を持つ,配位不飽和なイリジウムおよびロジウム錯体を合成した。すなわち,配位子前駆体となるヒドロシランL1(H)と[MCl(coe)2]2 (M = Ir, Rh; coe = シクロオクテン)とのSi-H酸化的付加と配位子置換を経る反応により,16電子ヒドリド(シリル)錯体M(L1)(H)Cl (1-Ir (M = Ir)および1-Rh (M = Rh))が得られた。X線結晶構造解析の結果から,両錯体ともL1が三座配位した歪んだ三方両錐型構造を持つことを明らかにした。 イリジウム錯体1-Irは室温でベンゼン-d6の炭素-重水素(C-D)結合を活性化し,金属上のヒドリド配位子がH/D交換により重水素化されることがわかった。この知見を応用し,錯体1-Irを触媒として用いることで,ベンゼン-d6を重水素源としてトリアルキルシランのSi-Hを室温において高変換率(> 90%)で重水素化する反応を開発した。本反応は,従来の他の金属触媒を用いた例に比べて温和な条件下で進行する。 2 L1の類縁配位子としてシリル配位子部分とビピリジン配位子部分を持つ新しいSiNN型ピンサー配位子L2を開発し,配位子前駆体L2(H)とRu(H)(PPh3)3Clとの反応により,ルテニウム錯体Ru(L2)(H)2(PPh3)Cl (2)へと誘導した。錯体2は,ベンゼン-d6 (重水素源)のC-D結合活性化を経て一置換アルケンのアルケニルC-Hを重水素化する反応(60 ℃で進行)の触媒となることがわかった。 上記のように,本年度の研究により,SiNN型ピンサー配位子L1およびL2を持つ新規の錯体が不活性なアレーンC-D結合を切断/変換する触媒として機能することを明らかにし,同配位子の支持配位子としての有用性を示す結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「9.研究実績の概要」に記述したように,本年度の研究により,2種類のシリルピンサー配位子L1およびL2を持つ錯体を合成し,得られた錯体を触媒として用いることで不活性な芳香環C-D結合の変換を経る反応の開発に成功した。今後,当該錯体が様々なアレーンやアルカンのC-H結合を変換する反応の触媒として適用できると期待される。また,配位子前駆体L1(H), L2(H)を用いることで,他の遷移元素を中心金属とする錯体を合成し,その触媒性能を調べる研究へと展開可能である。 以上の観点から,当初の研究計画に則した成果が着実に得られつつあるだけでなく,その成果が次年度の研究において発展の見込める科学的知見を含んでいるといえる。したがって,現時点において本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度合成したSiNN型シリルピンサー配位子L1およびL2を持つ錯体を触媒とした有機化合物の不活性結合(アレーンやアルカンのC-H結合など)の変換反応を開発するとともに,新規錯体の合成についても引き続き取り組む。特に,以下の1~3を重点課題とする。 1 イリジウム錯体1-Irおよびルテニウム錯体2は,いずれも芳香環C-D結合を活性化する能力を有することがわかった。そこで,これらの錯体を触媒として,アレーンやアルカンとケイ素化試薬(ヒドロシランやジシラン)およびホウ素化試薬(ヒドロボランやジボロン)との反応を行い,それぞれC-Hシリル化およびC-Hボリル化反応の開発を検討する。また,目的のC-H変換反応が開発できた場合は,その一般性を確認するため,基質適用範囲を調べる。生成物である有機ケイ素化合物および有機ホウ素化合物は有機合成反応(クロスカップリング,官能基化など)における有用な前駆物質となるため,その反応を開発する意義が大きい。 2 シリル-ビピリジンピンサー配位子L2を持つ9族金属(IrおよびRh)錯体を合成し,それらの構造・触媒活性を類縁体L1が配位した錯体1-Irおよび1-Rhとそれぞれ比較することで,窒素配位子部分の違いが錯体触媒の性質に及ぼす効果について明らかにする。 3 SiNN型配位子L1およびL2のピリジン配位子部分をN-複素環式カルベンに変えた新規のSiCN型ピンサー配位子の前駆体を合成するとともに,金属錯体へと誘導する。得られる錯体では,L1やL2に比べてSiCN型配位子から金属への電子供与が増大することで,金属上での不活性結合の酸化的付加による切断がさらに起こりやすくなると期待される。
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Causes of Carryover |
本年度は,所属研究室に既存の実験器具(真空ポンプ,ガラス器具など)を用いることで,研究に使用する物品費を節約し,当初の使用予定額よりも実支出額が低減できた。このため,当該経費の余剰分を次年度に繰越して,後述する使用計画に示した経費に補填することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究を支障無く行うため,追加の実験器具および消耗品の購入経費(物品費)の支出が必要となる。購入物品の具体例として,合成実験に用いるガラス器具類,触媒反応を追跡するために用いるNMRスペクトル測定用の試料管および重水素化溶媒,脱水有機溶媒,不活性ガス(アルゴンガスなど)が挙げられる。また,本年度と同様に,研究代表者の国際学会および国内学会での研究成果発表・情報収集のため,旅費の使用を予定している。さらに,測定機器類の維持管理や依頼分析のための「その他の経費」として,本年度の実績を考慮すると,交付申請書記載の予定額を超える支出が見込まれる。以上の使用計画に基づき,当初の予定額以上の経費が次年度に必要であり,その不足分を本年度からの繰越額で補填する予定である。
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Research Products
(11 results)
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[Journal Article] Directed ortho-C-H Silylation Coupled with trans-Selective Hydrogenation of Arylalkynes Catalyzed by Ruthenium Complexes of a Xanthene-Based Si,O,Si-Chelate Ligand, “Xantsil”2016
Author(s)
Takashi Komuro, Takeo Kitano, Nobukazu Yamahira, Keisuke Ohta, Satoshi Okawara, Nathalie Mager, Masaaki Okazaki, Hiromi Tobita
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Journal Title
Organometallics
Volume: 35
Pages: 1209-1217
DOI
Peer Reviewed
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