2016 Fiscal Year Research-status Report
固相で環境応答型発光性クロミック挙動を発現する金属錯体の開発とメカニズムの解明
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16K05718
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
中島 清彦 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (50198082)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 金属錯体 / ヒドラゾン化合物 / パラジウム / 白金 / 発光性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2座および3座の配位が可能な各種ヒドラゾン配位子を設計,使用して,発光性を有する各種金属錯体の合成単離を検討した。本年度は主にパラジウム(II),白金(II)について興味ある錯体を合成することができた。まずヒドラゾン配位子に含まれる2ヶ所の窒素原子で2座キレート配位したパラジウム(II)錯体は,光照射・加熱による異性化を発現し,反応溶媒の選択により,芳香環部位の炭素原子のシクロメタル化をともなった発光性パラジウム(II)錯体が単離された。芳香環部位の拡張や,イミン窒素原子上のプロトンの付加と解離により,多彩な発光色が発現した。現在,DFT計算による光の吸収と発光に関する軌道計算を検討中である。また,配位原子としてリン原子あるいは硫黄原子を有するシッフ塩基化合物を配位子とするパラジウム(II)および白金(II)錯体について固相および溶液中での発光性が認められる錯体の開発を行うことができた。従来の研究報告例を見ると,パラジウム(II)錯体よりも白金(II)錯体においてより多く,発光性に関する研究が報告されている。これは,発光性に関して,白金(II)錯体が有効であると考えられているためと思われる。しかし,本研究で我々が見出した系では,同一のヒドラゾン配位子を用いても,白金(II)錯体よりパラジウム(II)錯体の発光性が,固相中あるいは溶液中いずれにおいても高いという結果であった。極めて興味深い研究成果と思われる。これらの研究成果を,錯体化学討論会および日本化学会春季年会において,口頭発表,ポスター発表として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年年度当初の研究実施計画として,まず多彩な色や発光色を有する各種金属錯体の合成単離を目指した。その研究の成果として,本研究の目的に有効な発光性パラジウム(II)および白金(II)錯体を得ることができた。発光性の検討に必要な,これらほぼすべての錯体について,単結晶X線構造解析による分子構造,結晶構造の決定ができたことは,今後の研究を遂行する上で基礎となる極めて大きな成果である。ヒドラゾン配位子に含まれる2ヶ所の窒素原子で2座キレート配位したパラジウム(II)錯体の光照射・加熱による異性化反応と,芳香環部位の炭素原子のシクロメタル化をともなったパラジウム(II)錯体の合成・単離と構造,およびそのプロトン付加・解離に伴う発光性の変化については,概ね研究データがまとまり,当初の実施計画通り錯体化学討論会および日本化学会春季年会において研究成果発表を行った。発光に関わる電子遷移をDFT計算に基づいて考察した後,学会誌へ論文投稿に向けた執筆を進める予定である。また,配位原子としてリン原子あるいは硫黄原子を有するシッフ塩基化合物を配位子とするパラジウム(II)および白金(II)錯体についても,シクロメタル化反応にともなう発光色の変化が認められ,固相における発光も確認することができた。塩酸の添加により白金(II)錯体が白金(IV)錯体へと酸化され,アミンの添加により白金(II)錯体へと還元される,興味深い相互変換の現象を見出すこともできた。以上のように,昨年度の研究成果は,次年度以降への展開が十分に期待できる成果であると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究がおおむね順当に進捗したことから,本年度の研究は当初の実施計画に沿って実施したいと考えている。即ち,使用する金属イオンの種類を拡張して,新たに銀(I), 金(I)(III)等の錯体を合成・単離したい。昨年度実施のヒドラゾン配位子を有するパラジウム(II)錯体では,イミン窒素原子上のプロトン付加体のみが単離された。これは,パラジウム(II)の+2価の電荷がもたらす効果と考えられる。そこで+3価の電荷を有する金(III)錯体を合成すれば,d軌道の電子数を変えることなく,プロトン解離体が単離できると考えた。また,銀(I),金(I)錯体は低配位数をとると予想され,ヒドラゾン化合物やシッフ塩基化合物が架橋配位子として機能する多核錯体の形成が期待できる。多核錯体においては,-C=N-部位の(E)⇔(Z)変換の自由度が増大すると考えられ,この異性化に由来するフォトクロミック挙動およびサーモクロミック挙動が溶液中および固相中で発現するのではないかと期待される。本年単年度での実施には時間的な制約もあるかもしれないが,次年度への研究の継続を視野に入れて,ユーロピウム(III),テルビウム(III)等のランタニド(III)錯体の合成を,上述の実施計画に並行して展開したいと考えている。ユーロピウム(III),テルビウム(III)錯体では,それぞれf-f遷移に基づく赤色,緑色発光がよく知られている。芳香族性を有し,配位子単独でも発光性を有するヒドラゾン化合物やシッフ塩基化合物を配位子に使用することで,環境に応じて多色発光が可能な錯体を開発したいと考えている。
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Causes of Carryover |
昨年度は,研究対象として有効に機能する各種発光性金属錯体の合成検討から実験研究を開始した。したがって,錯体合成の成否を判断する上では,少量の試薬を用いて合成実験の検討を行った。目的とする金属錯体の合成が,当初の予想どおりにおおむね順調にしたため,高額な試薬は比較的少量の使用で実験を実施できた。また,使用する装置が順調に稼働したため,消耗物品の購入も少額で研究の実施が可能となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究対象となる発光性金属錯体の興味ある性質を見出していくために,前年度よりも大きなスケールで合成実験を行う必要があると想定される。また,金および白金等の金属錯体の合成原料となる貴金属試薬および配位子合成のための高額な試薬の購入が次年度は多くなる予定である。各種分光測定の装置およびX線回折装置などの使用頻度が多く,場合によっては高額な消耗品を購入する必要を生じる可能があるため,これに備えて次年度使用額をその購入費用の一部に使用する計画である。
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Research Products
(12 results)