2016 Fiscal Year Research-status Report
超高効率な太陽光水分解反応を可能にする分子性タンデムセルの開発
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16K05726
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小澤 弘宜 九州大学, 分子システムデバイス国際リーダー教育センター, 助教 (30572804)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 錯体色素 / 錯体触媒 / 二酸化チタン / 修飾電極 / 光電気化学セル / 太陽光水分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
太陽光水分解を志向した色素増感光電気化学セル(DSPEC)に用いられる錯体色素や錯体触媒は、TiO2電極に対するアンカー基としてカルボキシル基やリン酸基を有しており、TiO2表面において化学結合を形成することによって吸着することが知られている。これらの化学結合は有機溶媒中において比較的安定であるものの、水溶液中においては不安定であり、TiO2表面から容易に脱離してしまうことも知られている。DSPECによる高効率な太陽光水分解反応を達成するには、水溶液中においてもTiO2表面に対して強固に結合するアンカーを持つ錯体色素や錯体触媒を開発することが必要不可欠である。
本年度は、従来のカルボキシル基やリン酸基などに代わるアンカー基としてピリジン環を有するルテニウム錯体色素(Ru-py)の合成を行った。また、カルボキシアンカーを持つルテニウム錯体色素(Ru-C)、およびリン酸アンカーを有するルテニウム錯体色素(Ru-P)の合成も行い、これら3種類のルテニウム錯体色素のTiO2表面に対する吸着能の比較検討を行った。TiO2電極に対する各錯体色素の吸着量はほぼ同程度であり、ピリジン環がTiO2表面に対するアンカー基として有用であることが明らかとなった。各錯体色素を修飾したTiO2電極を水溶液中(pH 5)に浸漬し、各錯体色素の脱離挙動を調査したところ、Ru-Cは約10分間で全てが脱離したのに対し、Ru-Pは2時間の間に約30%が脱離した。一方、Ru-pyではTiO2表面からの脱離は全く観測されなかったことから、ピリジンアンカーは水溶液中において従来のカルボキシアンカーやリン酸アンカーよりも優れた吸着能を示すことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は上記の通り、ピリジンアンカーが水溶液中においてもTiO2表面に対して優れた吸着能を示すことを明らかにした。本研究課題の目的である「超高効率な太陽光水分解反応の達成」に向け、錯体色素や錯体触媒をTiO2などの金属酸化物半導体薄膜上に強固に化学吸着させる方法を確立することは極めて重要なステップである。初年度にこれをクリアすることができたことは大きな進歩であると言える。
現在までにピリジンアンカーを有する酸素生成錯体触媒、および水素生成錯体触媒の合成とTiO2電極に対する吸着挙動の調査も既に行っており、ピリジンアンカーがルテニウム錯体だけでなく、他の金属錯体のTiO2表面への固定化に対しても非常に有効であることも確認している。また、これらの錯体触媒修飾電極を用いた光化学的、あるいは電気化学的触媒機能の評価も進めている。このうち、ピリジンアンカーを有する白金ポルフィリン錯体を修飾したTiO2電極を用いた水からの電気化学的水素生成反応においては、水素生成反応の過電圧が極めて小さいことや、長時間の定電位電解反応を行っても白金ポルフィリン錯体が安定であることなど、非常に興味深い成果を得ることに成功している。さらに、カソード材料として一般的に利用されるNiOを用いた水素生成錯体触媒修飾電極による電気化学的水素生成反応においては、水の還元反応とNiOのNi2+の還元反応が競合して進行することによってファラデー効率が低いことが知られているが、白金ポルフィリン錯体を修飾したTiO2電極を用いた場合、ほぼ100%のファラデー効率で水の還元反応が進行することも明らかとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、初年度は「水溶液中においてもTiO2表面に対して強固に化学吸着するアンカー基の開発」、および「白金ポルフィリン錯体修飾TiO2電極による電気化学的水素生成反応」に関する研究を主に行った。今後はこれらの成果を踏まえ、錯体色素と酸素生成錯体触媒で修飾したTiO2電極(フォトアノード)、および錯体色素と水素生成錯体触媒で修飾したTiO2電極(フォトカソード)の作製を行う予定である。
まずは、フォトアノード用錯体色素、およびフォトカソード用錯体色素の開発を行う予定である。フォトアノードに用いる錯体色素としては、酸素生成触媒による触媒反応のオンセットポテンシャルよるも十分低い酸化電位を持ち、およびTiO2の伝導帯準位よりも十分高い還元電位を持つことが必要になる。一方、フォトアノードに用いる錯体色素には、水素生成触媒による触媒反応のオンセットポテンシャルよりも十分高い還元電位を持ち、フォトアノードに用いる錯体色素とは異なる波長範囲の太陽光で光励起することが可能であることが求められる。これらの要求を満たす錯体色素の開発を行う。各錯体色素の光増感機能は、白金電極を対極とし、犠牲試薬を用いたモデルセルにおいて評価する予定である。
次に、フォトアノード用酸素生成錯体触媒の開発を行う予定である。一般に、酸素生成錯体触媒による触媒反応の過電圧は数百ミリボルトと非常に大きい。そこで本研究では、より小さな過電圧で触媒反応を駆動できる酸素生成錯体触媒の開発を目指し、TiO2修飾電極を用いて電気化学的触媒反応の評価を行う予定である。
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Causes of Carryover |
年度末の学会出張に関わる旅費の費用が当初の予想より少なく済んだが、その差額分を年度内に執行することができなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は6,150円の残額が生じたが、金額が僅かであるため平成29年度の助成金使用計画に変更は生じない。
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Research Products
(9 results)