2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K05727
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松本 崇弘 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90570987)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水素 / 酸素 / 分子触媒 / 燃料電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の成果は、(a)「水素と酸素の活性化できる非貴金属触媒の開発とその反応メカニズムの解明」と(b)「水素と一酸化炭素を両方酸化できる新規分子触媒の開発」である。上記の成果は既に投稿の段階まで到達している。以下に具体的な内容について記述する。 水素-酸素燃料電池は、水素から取り出した電子を酸素に与えることによって発電し、廃棄物として水しか排出しない環境調和型の発電システムである。その中でも固体高分子形燃料電池は、出力密度の高さや作動温度の低さ(室温~90 ℃)から自動車や家庭用電源のような比較的小型な移動用電源として実用化されている。しかし、この固体高分子形燃料電池は枯渇性資源の白金を使用しており、その実質的な普及のためには白金の代替触媒の開発が必須である。また、白金は、水素に含まれるごく微量の一酸化炭素で被毒されてしまうため、超高純度水素を必要とする問題も未だ解決されていない。そこで本研究では、(a)「水素と酸素の活性化できる非貴金属触媒の開発とその反応メカニズムの解明」と(b)「水素と一酸化炭素を両方酸化できる新規分子触媒の開発」を行った。 (a)の研究テーマでは、天然に存在する水素と酸素を活性化できる酵素(ニッケル・鉄ヒドロゲナーゼ)の活性中心構造を模倣し、ニッケルと鉄原子を骨格に含む二核錯体を合成した。この骨格を保持する配位子を系統的に変化させることで、水素と酸素の活性化メカニズムの鍵となる要因を初めて解明することができた。本成果は現在論文投稿中である。 (b)の研究テーマでは、水素を酸化できるニッケル・鉄ヒドロゲナーゼと一酸化炭素を酸化できる酵素(一酸化炭素デヒドロゲナーゼ)の活性中心構造を規範として、分子レベルでその構造をモデル化することで、水素と一酸化炭素を両方酸化できる分子触媒の開発に成功した。本成果も現在論文投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究の立ち上げに尽力し、とりわけ、水素と酸素の活性化触媒の開発に取り組み、その結果、上記の「9.研究実績の概要」に記載した成果を得ることができた。その成果について、3件の重要な国際学会で招待講演を行った(ICCC-42、AsBIC8、I2CNER International Workshop、詳細は「13.研究発表(平成28年度の研究成果)の学会発表」に記載)。また、以上の成果が評価されて、平成28年度錯体化学会研究奨励賞を受賞することができた(第66回錯体化学会討論会にて受賞講演)。平成28年度中に水素と酸素の活性化触媒の燃料電池用電極への応用を既に行っており、その評価実験も行っている。これまでの分子触媒よりも耐久性と性能が向上しており、その成果を早い時期に論文として投稿する予定である。 また、水素と酸素を活性化する触媒の開発過程で、アセチレンなどの小分子を活性化する触媒の開発も行った(Dalton Trans. 2016, 45(37), 14620-14627 [Themed issue on Small Molecule Activation]、Chem. Lett. 2017, 46(1), 74-76、「13.研究発表(平成28年度の研究成果)の雑誌論文」に記載)。これらの触媒開発も今後の研究の発展につながる重要な成果であると考えている。 以上をまとめると、平成28年度の研究は順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように、現在は順調に研究が進展している。今後は開発した水素と酸素を活性化する分子触媒を燃料電池に搭載し、その発電性能や電気化学的特性を分子論的、電気化学的により詳細に解析し、成果として報告していく予定である。具体的には以下のとおりである。 分子触媒とカーボン材料により電極触媒を調整し、ガス拡散層である炭素繊維に塗布し、電極を作製する。その電極でプロトン透過膜を挟み込み、膜・電極接合体を作成し、燃料電池に搭載し、電流-電圧曲線を測定する。アノードとカソードでの性能を調べるために両極でそれぞれ分極曲線を測定する。この半電池測定によって、触媒の性能を見積もることが可能である。また、ターフェルプロットで交換電流密度を決定し、アレニウスプロットにより活性化エネルギーを見積もる。さらに、インピーダンススペクトルにより抵抗成分を決定する。この解析によって、より詳細に電極触媒としての特性の情報を得ることができる。また、カソード触媒については、Koutecky-Levich プロットにより過酸化水素の生成について検討する。 以上のように、今後は、初年度で得られた結果を適切にまとめて発表していく予定である。
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