2016 Fiscal Year Research-status Report
乱れを制御したダイマーモット絶縁体における量子スピン液体状態の発現と消失
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16K05747
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
米山 直樹 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (80312643)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 量子スピン液体 / 部分分子置換 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子スピン液体のダイマーモット絶縁体k-(ET)2Cu2(CN)3(以下k-CN)およびk-(ET)2Cu[N(CN)2]Clに異種分子を導入することで乱れを制御し,量子スピン液体相の発現と消失の機構を解明することが本研究の目的である.その方法として,ET分子と親和性の高い非対称分子を結晶中に導入する.非対称分子は空間反転対称性を破壊し,ダイマー上の局在スピンに影響を及ぼすと考えられる.初年度は単結晶育成と同定,および圧力下電気抵抗測定の予備的実験を行った.(1) 単結晶育成と同定:置換分子として非対称ドナーEPT(Ethyleneditio-Propylenditio-Tetrathiafulvalene, C11H10S8, ET+PT型の分子)を用い,EPT添加k-CNを添加量0-10%の範囲で結晶育成を行った.X線構造解析と静電容量法による誘電率の周波数および温度依存性測定を行い,添加量に対する系統性を検討した.4%未満の低濃度域では結晶中のEPTによる有意な影響は確認できず,10%の高濃度添加塩においてもPT添加で見られた強い正の化学圧力による金属化は起こらず,MT1%相当の弱い乱れの寄与と活性化エネルギーの減少が発現した.非対称分子の添加が電子系に予想よりかなり弱い変調しか与えない理由として,結晶中でhead-to-tail型にEPT分子が凝集し,想定していたETとEPT分子のペアから成るヘテロダイマーの形成効率が小さいことが考えられる.(2)圧力下電気抵抗率測定:2 GPaのPPMS用クランプ式高圧セルを本助成予算で購入し,MT10%添加k-CNの圧力下電気抵抗測定を行った.超伝導転移温度の圧力依存性は過去の報告例にある未置換k-CNの温度-圧力相図をほぼ再現しており,MT置換による負の化学圧力と乱れの影響の検証にはより詳細な実験が必要である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
結晶育成と圧力下電気抵抗測定については順調に進行している.非対称分子の部分置換がもたらす影響が想定よりも小さいため,29年度は予定していた東北大と分子研の共同利用申請を見送った.これにより磁化測定に関する実験の進捗が当初の見込みよりやや遅れて進行する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度は次の3点について注力して研究を推進する.(1)単結晶育成と同定:EPTおよびMPT(Methylenditio-Propylenedithio-Tetrathiafulvalene, C10H8S8, MT+PT型分子)添加k-CNの高濃度添加育成を行い,前年度と同様にX線構造解析等のキャラクタリゼーションを行う.また新規物質開拓に関する研究着手の予定を1年繰り上げ,非対称ドナーを用いた新規有機伝導体の開発を試みる.(2)圧力下電気抵抗率測定による化学圧力効果の検証:PT添加k-CNでは金属/超伝導相が発現し正の化学圧力の効果によると考えられるが,昨年度の予備実験ではMT置換k-CNに負圧の効果が見られていない.小さい分子置換がもたらす負の化学圧力について詳しい知見を得るため,圧力下電気抵抗によりMT添加k-CNでの測定を引き続き行う.(3)SQUID磁束計による静磁化率の温度依存性測定:本研究計画遂行のために最も重要になるのが磁化測定であるが,非対称ドナー置換が電子系に与える変調が当初の想定よりも弱いため,本年度は東北大および分子科学研究所の共同利用申請は見送り,本科研費による出張実験のみを行う.東北大金研のSQUID磁束計を用い,2-20 Kでの静磁化率の温度依存性を測定するため4泊5日の出張実験を1回することで必要なデータを収集する.
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Causes of Carryover |
学内業務のため学会参加を取りやめたことで旅費支出が浮いたため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
東北大学での実験のための出張旅費として使用予定である.
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