2017 Fiscal Year Research-status Report
ラジカル重合停止機構の解明―精密ラジカル反応にもとづく新局面の開拓
Project/Area Number |
16K05795
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
中村 泰之 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 統合型材料開発・情報基盤部門, 主任研究員 (30456826)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ラジカル重合 / 重合反応機構 / 停止反応 / 結合反応 / 不均化反応 / 溶媒効果 / ラジカル反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
アクリロニトリルの停止反応について詳細な検討を行い、従来実験的には明らかにされていなかったC-N結合停止を反応生成物の構造分析により見出した。これとともにC-N結合生成物が高温で不安定であり元のポリマー末端ラジカルに分解すること、溶媒粘度による停止反応選択性の変化の効果を受けにくいこと、一方で溶媒の極性効果を受けることを明らかにした。溶媒粘度・極性と選択性の関係性についてはさらに検討を行う必要がある。 一方で、有機テルル化合物を反応前駆体に用いる本方法における副反応の可能性について検討を行った。TEMPOをラジカル捕捉剤として用いて有機テルル化合物の光ホモ開裂反応を行うと、ベンゼンなどの低粘度溶媒では定量的にTEMPOと反応し、付加体および少量のベータ水素引き抜き生成物を与えた。一方で、ポリエチレングリコールなど高粘度溶媒を用いるとTEMPO付加体の生成割合が減少することがわかった。この結果は高粘度溶媒中ではラジカル生成時に溶媒ケージ内で炭素ラジカルとテラニルラジカルの対が反応し、生成物を与えている可能性を示唆している。現段階ではこの反応の機構を確定する結果は得られておらず、検討を引き続き行う。 有機テルル化合物に代わるラジカル前駆体を用いて停止反応を行うことで、有機テルル化合物を用いた停止反応の信頼性の検証を試みた。拡散したラジカルを生成するとして知られるジアルキルケトンに着目し、重合末端モデルラジカルを生成するジアルキルケトンを新規に合成して検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究手法の種々のモノマーへの拡大については、アクリロニトリルの検討がほぼ完了しており、およそ予定通りである。C-N結合停止の存在を明らかにできるなどの研究成果が得られた。一方で、高粘度溶媒中では炭素ラジカルと同時に生成するテラニルラジカルに由来する副反応の可能性についての検討について、現在得られている結果ではまだ結論を得ることができていない。この点は本手法を用いた停止反応の機構決定において極めて重要であるため、副反応の有無は詳細に明らかにする必要がある。現在はラジカル捕捉実験を用いて検討を行っているが、これだけではなく他の前駆体を用いた検討や、さまざまなラジカル生成反応を用いた実験が必要であると考えている。これらの実験を実施するための反応手法探索、化合物の合成、反応の実施と解析に時間を要する。ただし、これらの検討を通してこれまでに知られていない反応性の発見が見いだされると予想されるため、ラジカル停止反応解析の研究においては有用であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
テルル化合物を用いたラジカル反応における副反応の可能性の有無を、ラジカル捕捉実験と溶媒効果の検討、反応速度の検討などから明らかにする。ラジカル捕捉実験としてはこれまでのTEMPOを用いた反応に加えてチオールの利用を検討し、溶媒粘度による生成物の違いから反応機構を推定する。これと並行してテルル化合物以外の(既存の)ラジカル前駆体を用いたラジカル停止反応について、その有用性と反応性を明らかにする。すでにジアルキルケトンの光反応を検討しているが、重合末端モデル化合物を合成し反応を行ったところ、従来知られていない溶媒効果が確認された。これについて調べることで、ジアルキルケトンの停止反応解析における有用性を確認し、利用を検討する。このほか、ハロゲン化物と金属試薬を用いたラジカル生成など種々の方法を検討する一方で、停止反応の検討に適した新しいラジカル前駆体についての探索も行う。 モノマー種ごとの停止反応機構については、アクリルアミド、および電子的・立体的に性質の異なる置換基を持つ(メタ)アクリル酸エステルについて検討を行う。置換基のパラメータと反応選択性の相関について検討することが目的であり、分子構造から停止反応の選択性を推定することができる方法の開発を行う。
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Causes of Carryover |
反応研究において予想と異なる結果が得られるなどして、実験実施を再検討する必要が年度末に生じた。十分に検討したのちに薬品の購入を行うのが適当と考え、そのための費用を次年度へ持ち越した。
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Research Products
(5 results)