2016 Fiscal Year Research-status Report
分子間相互作用の制御による力学的・機能的異方性をもつ多糖複合フィルムの作製
Project/Area Number |
16K05799
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
橋詰 峰雄 東京理科大学, 工学部工業化学科, 准教授 (40333330)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | フィルム / 多糖 / 延伸 / 異方性 / 生体材料 / ポリイオンコンプレックス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、反対荷電をもつ多糖同士からなるポリイオンコンプレックス(PIC)の加熱延伸によって得られる多糖複合フィルムについて、多糖PIC がフィルムへと成型される機構を明らかにし、さらにその知見を基に延伸方向に対して高い機械的・機能的異方性をもつフィルムを作製することを目的としている。特に(1)多糖の化学構造、(2)PIC ゲルの作製方法、(3)加熱延伸条件、の3 つの因子の効果に焦点を当てている。本年度は(1)に関してはコンドロイチン硫酸(CS)/キトサン(CHI)複合フィルムに固定し、(2)に関しては申請者らが見出した熱プレスによるCS/CHIフィルムの作製条件と同様とし、主に(3)の因子について詳細に検討を行った。具体的には加熱温度、ローラー回転速度、延伸回数、がフィルムの成膜性や物性に与える影響を系統的に評価した。その結果、成膜過程においてこれら3つのパラメータは相互に連携していることが明らかとなった。水を含んだPICゲルが加熱延伸により水の蒸発を伴いながら延伸される機構と考えられ、その脱水速度と延伸速度のバランスが成膜性に大きな影響を与えることが示唆された。物性面では、延伸方向と延伸方向に垂直な方向とで最大約5倍の引っ張り強度の違いが観察され、加熱延伸により機械的強度の異方性をもったフィルムが作製できることが示された。PICおよびフィルムのX線回折測定では加熱延伸により糖鎖の分子レベルでの配向性の変化は観察されず、PICの単位構造が延伸により配向する機構が考えられた。 また、並行して(2)の検討として購入備品のミキサーミルを用い、成膜前のPICゲルに高速剪断処理施したときの効果について検討を開始した。PICゲルの巨視的形態には影響がみられたものの、成膜後のフィルムの形態や物性には有意差は見出されず、処理および成膜過程の改良が必要と考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度当初の計画では上記項目の(1)多糖の化学構造、(2)ポリイオンコンプレックス(PIC)の作製方法、を中心に検討する予定であったが、(3)加熱延伸条件について興味深い結果が得られたのでそちらを先に重点的に取り組んだ。また、本科研費で備品としてミキサーミルを購入することができ、それを用いて多糖PICに機械的剪断処理を施すという実験系を立ち上げることができた。来年度以降の研究の土台を築くことができており、期間内の到達目標と比較すると検討する順番について一部入れ替わりはあったものの、進捗状況としてはおおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、検討項目のうち(2)ポリイオンコンプレックス(PIC)の作製方法、に関して、ミキサーミルを用いた多糖ポリイオンコンプレックス(PIC)に対する機械的剪断処理の効果を本格的に検証する。PICゲルの物性に影響をもたらすような処理条件を見出し、さらにその物性変化を成膜後のフィルムにまで転写するための、フィルムの加熱延伸条件についても新たに探索する必要があると考えている。(1)多糖の化学構造、に関しては、当初本年度の計画として考えていた分子量の異なるコンドロイチン硫酸(CS)やキトサン(CHI)を用いた場合の効果や、CS以外の他のアニオン性多糖を用いたフィルム作製などについて取り込む。これら多糖化学構造の違いは、多糖PICにおける糖鎖間の相互作用や、PICゲルの単位構造のサイズおよびゲル間の相互作用に影響を与えることが予想されるため、それらの違いがフィルムの成膜性や機械的強度に反映されることを実証する。また、機能性フィラーを添加することなどによって機械的特性以外のフィルムの機能に関しても評価を開始し、目標としている機能異方性フィルムの実現に向けた足がかりを築く。
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Causes of Carryover |
人件費、謝金が結果として不要であったことと、物品の購入について計画当初の見込金額と実際に購入額に若干の差が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費(消耗品費)としての使用を計画している。
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