2016 Fiscal Year Research-status Report
超分子複合体の形成過程追跡のための温度・圧力制御型電気泳動法および解析法の開発
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16K05814
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
石黒 亮 岐阜大学, 工学部, 助教 (20293540)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤澤 哲郎 岐阜大学, 工学部, 教授 (10231565)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 分析化学 / 電気泳動分析 / 超分子化学 / タンパク質複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、独自に開発した高圧力電気泳動装置を用い、高圧力によるタンパク質複合体の解離・会合平衡の摂動をポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)分析によって定量する方法論の確立である。そこで研究実施計画に従い、タンパク質複合体の解離・会合平衡が実際に観測でき、かつ各解離中間体が同定・定量できるPAGE溶媒条件の探索を大気圧下でおこなった。 タンパク質複合体試料として、らせん会合体を形成する微生物(Rhodococcus rhodochrous J1)由来のニトリラーゼを組み換え大腸菌より発現・精製して使用した。高輝度放射光施設におけるX線小角散乱(SAXS)測定によれば、このニトリラーゼはイオン強度が高く,温度が高いほど会合が可逆的に進行する。一方、PAGE分析においては温度が高いほどバンドが広がって分離が悪くなり、またイオン強度が高いほど電気抵抗の低下による泳動速度の減少や温度上昇が問題になる。そこで、様々な温度・溶媒条件でSAXS 測定およびPAGE分析をおこない、10~20 ℃、50 mMカリウム-リン酸緩衝液において、3種類の会合種がPAGE分析において観測できることを確認した。 この泳動条件を用いて、様々なアクリルアミド濃度のゲルを用いてニトリラーゼのPAGE分析をおこない、同時に9種の標準タンパク質のPAGE分析より検量線を作成して、観測された3種類の会合種を解析したところ、それぞれ2量体(プロトマー)、6量体、10量体と同定された。これはSAXS測定より見積もられた会合種と一致する。また、物品費より新たに購入したPAGE解析専用イメージスキャナーを用い、ゲル画像の解析より各会合種の定量に成功した。大掛かりな設備を必要とせず、また会合種分布がPAGEパターンとして観測できる本手法は、汎用性・簡便性に優れた方法論であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、らせん会合体を形成するニトリラーゼを試料として用い、高圧力によるタンパク質複合体の解離・会合平衡の摂動を高圧力ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)分析によって定量する方法論の確立である。研究実施計画では、平成28年度には大気圧において、ニトリラーゼの会合平衡が実際に観測でき、かつ各解離中間体が同定・定量できるPAGE溶媒条件を探索すること、平成29年度以降に高圧力下におけるPAGE分析をおこなうこととしている。 タンパク質複合体の解離中間体の分析には、泳動方向に濃度勾配を持つポリアクリルアミドゲルを用いた濃度勾配PAGE法が有望であると考えられた。そこで、現有の高圧力電気泳動装置に使用可能な、濃度勾配ディスクゲル(ガラス細管内に調製するゲル)を作製するための装置を電気泳動槽メーカーとともに開発した。しかし、濃度勾配作成器がまだ最適化できておらず、再現性の良い濃度勾配ゲルを作製することができなかった。そこで、均一濃度ゲルを用いたPAGE分析法に切り替え、実験を進めた。 その結果、ニトリラーゼが3種類の会合種を示す溶媒条件でPAGE分析をおこなうことに成功した。また、PAGE結果のアクリルアミド濃度依存性の解析より、会合数の同定をおこなうことができた。このように一部に計画の変更はあったものの、計画当初の想定範囲内であり、平成29年度以降の実験計画に支障はない。これらのことから、計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の成果に基づき、らせん会合体ニトリラーゼの高圧力下におけるポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)分析を様々な温度・圧力において系統的におこない、温度・圧力によるかい離・会合平衡のずれが泳動パターンにどのように反映するか調べる。また、大気圧下でのニトリラーゼの泳動パターンには、スメア(バンドの広がりやバンド間の重なり)が観察されている。これは、泳動中に各中間体が分離されたことによって平衡状態が破れ、反応速度や泳動速度に従って、再かい離・再会合が起こることが原因と考えられる。そこで、泳動時の印加電圧によって泳動速度を変え、泳動パターン上のスメアがどのように変化するかを調べる。 得られた結果より、各温度・圧力におけるかい離・会合の平衡定数を算出する。さらに熱力学的解析によって自由エネルギー等の各種パラメーターを算出し、ニトリラーゼらせん会合体の安定性の評価をおこなう。得られた結果をX線小角散乱(SAXS)より見積もられている結果と比較する。また、上に述べた泳動バンドのスメアを可能な限り精密に定量し、印加電圧(泳動速度)との相関や、平衡定数の見積もりへの影響を調べ、反応速度を考慮した解離・会合平衡の解析方法について検討する。 また、平成28年度にはうまくいかなかった、 濃度勾配ディスクゲル作製装置の開発を継続しておこなう。会合体、解離中間体および解離体がより広い分子量分布に亘っている場合には、濃度勾配ゲルを用いたPAGE分析がより有効であると考えられるため、この装置の開発は本研究課題の拡張性をより高めることが期待できる。研究代表者らは、より大きな会合体を形成するニトリラーゼ変異体を得ており、SAXSによる実験を既に進めているため、この変異体試料を用いて濃度勾配ゲルを用いた高圧力PAGE分析をおこなう。
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