2017 Fiscal Year Research-status Report
電子移動反応をプローブとするイオン液体の緩和過程の観測とそれを用いた反応制御
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16K05865
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高木 秀夫 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 准教授 (70242807)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イオン液体 / 光電子移動反応 / 均一系電子移動反応 / 誘電特性 / Pekar因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、電子移動反応理論(Marcus 理論、Ratner-Levineの交差関係等)を駆使してイオン液体の緩和挙動を観測することを目的として研究を続けている。これまでに、ZnTPP錯体の光励起三重高状態と籠状配位子を有するCo(III)(sep)錯体の基底状態の間の電子移動過程についてアセトニトリルならびに陰イオン部位がビス(トリフルオロメチルスルフォニル)アミドで共通の三種類のもの(メチルイミダゾールの窒素上置換基がブチル、ペンチル、ヘキシルと側鎖の長さが異なる)を溶媒として検討した。 アセトニトリル中における測定結果に基づいて、マーカス理論を用いて各電子高関係の内圏活性化エネルギーを見積もり、その値が溶媒に依存しないことを利用して、各イオン液体中における交差反応の外圏活性化エネルギーを計算した。外圏活性化エネルギーが溶媒/媒質のPekar因子を反映することから、反応種近部の各イオン液体の媒質の誘電特性(回転緩和時間に依存する)を検討し、イオン液体が溶存イオンの周りで解離し、陽イオン部位と陰イオン部位が相関しながら回転緩和することが明らかになった。 側鎖の長い置換基を持つ陽イオン部位では回転緩和速度が遅く、その結果イオン液体に溶存する金属イオンの周りに存在するイオン液体の見かけの誘電率がバルク誘電率よりも大きくなっていることが明らかになった。すなわち、イオン液体は通常バルクにおいては全くイオン解離しておらず、電極表面では解離しているが、バルクイオン液体であっても溶存金属イオンの周囲では部分的に解離していることが明らかになった。このことは、イオン液体は比較的小な誘電率を呈するにも関わらず、分極していない有機化合物のほかイオン性の物質も溶解するという一般的性質をよく説明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた目的のほぼ80%程度を達成した結果、イオン液体の得意な溶媒物性に起因する新たな知見が得られた。それはアゾベンゼン類の熱意成果過程を観測した際に、側鎖をブチル、ペンチル、ヘキシルと変化させたときに、ペンチル基を有するイオン液体でのみ活性化エネルギーが大きく、その代わりに周波数因子が大きくなるという傾向である。電子移動反応系では外圏活性化エネルギーは側鎖長に依存して単調に変化したが、熱異性化過程では単なる「みかけ誘電率」の変化としてではなく、反応の周波数因子の差が現れたわけである。現在この際について鋭意検討中であり、今年度中にその原因を解明できるものと考えている。 さらに、最終年度にはイオン液体が溶存イオンの周囲で解離して大きな見かけ誘電率を呈する現象を利用して、イオン液体を用いた電子移動過程の識別とそれに基づく速度論的分析法の確立を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である本年度には二つの研究を平衡して行う予定である。 (1) 陽イオン部位を共通にするが陰イオン部位の大きさと形状が異なるイオン液体中における光電子移動反応過程の観測と解析、(2) イオン液体中におけるアゾベンゼン類の熱異性化反応過程の再検討 (1)では、従来、陽イオン周りの解離したイオンの状態は、イオン対の生成あるいは誘電飽和に近い存在と考えられている。陽イオン部位を共通とするイオン液体中での光電子移動過程の検討により、陰イオン部位のサイズあるいは形状のもたらす溶媒緩和への効果が明らかになり、溶存イオン周りのイオン液体による溶媒和環境をさらに詳しく検討できると考えている。 (2) では、一般的にエントロピーの寄与を含むと考えられている周波数因子が、なぜペンチル基を側鎖にもつイオン液体で得意な値を呈するのか精査する。イオン液体中におけるシス/トランス異性化平衡の有無など、イオン液体の得意な挙動に起因する現象を追求する。これまでの予備実験において、光による励起のない輸液について吸収スペクトルの温度依存性(熱膨張率の効果を上回り、さらに等吸収点まで観測される)が観測されており、そのような熱平衡の存在が示唆されている。これまでの成果から、イオン液体は分極状態あるいは電荷を持つ状態の周りで解離し対イオンとして選択的に存在することがわかっている。今年度はそのようなイオン液体の特性が反応の遷移状態にどの程度の安定化をもたらすのかを、イオン液体の陽イオン部位と陰イオン部位を系統的に変化させて定量的に検討する。
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Research Products
(3 results)