2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K05897
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Research Institution | Saitama Institute of Technology |
Principal Investigator |
木下 基 埼玉工業大学, 工学部, 准教授 (40361761)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 有機半導体 / 液晶 / 光配向 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、有機EL、太陽電池、有機トランジスタなどの有機半導体を用いるデバイスが注目されており、デバイス性能を左右する電荷移動度の向上のために、いかに電荷移動に有利な分子配列や結晶構造を持たせるかが鍵となっている。しかしながら、分子構造から結晶構造を予測することが容易でないように、孤立分子の分子特性が必ずしも分子集合体の物性に反映されるわけでない。本研究では、一旦、集合体を形成した後にでも、系の分子配向を制御できる『光』を用いた簡便な手法を開発し、有機半導体の高性能・高効率化に資することを目指している。今年度は、光配向性の有機半導体の探索をより簡便にするために、分子の僅かな動きを増幅させて、屈折率変調により光応答性を確認できる非線形光学効果を利用する方法を適用した。 有機半導体オリゴチオフェンを0.1 mol%含むネマチック液晶を調製し、レーザー光を照射し、光応答性について検討したところ、透過光は、ゆらぎのある複数の干渉縞を形成することがわかった。これは、オリゴチオフェンが光によって励起状態が生成するとともに、光の電場が相互作用することにより、オリゴチオフェンからのトルクが生じて液晶系全体の配向変化が誘起されるためであり、自己位相変調効果と自己収束によって透過光により干渉縞が形成されると考えた。また、同時にプローブ光を同軸で入射することにより、配向方向についても詳細に調べたところ、光電場と平行方向に配向変化が誘起されることがわかった。 以上のように、液晶中に僅かな有機半導体を混合し、光を照射するだけで、有機半導体の光に対する配向応答性を検出できることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,光配向性の有機半導体を早期に見いだすことが,最優先課題であるため、材料系の探索を重要視してきた。これまでに,オリゴチオフェン誘導体を中心としていくつかの有機半導体が効率よく光配向応答性を示すことを明確にし,着実に成果を積み重ねている。本年度は,入手可能なオリゴチオフェン誘導体を用いたところ,比較的共役長が長く、異方性が高いオリゴチオフェン誘導体が液晶を効率よく光配向可能なことを確認している。また、簡易的な分子構造計算の結果からは、基底状態においてHOMOの電子雲は分子全体に拡がっているのに対して、LUMOの電子雲は分子の中央部分の密度が高い分子が、比較的良好な光応答性を示すことが共通していることが明らかになった。これまでの光励起前後においてHOMOとLUMOの電子雲の差が大きいほど、配向応答性が高くなると考えられていることに加えて、分子中の電子雲の変化の位置について、共通性がみられていることは、注目に値する成果である。学会や研究発表会などにおいても第三者から評価していただき、基底状態の計算だけでなく、励起状態の計算により、さらに明確できるなど建設的なコメントをいただいている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度開発した光配向性の有機半導体の探索手法を、様々な化合物に展開する。また、液晶ホストの改良による高感度化、液晶ホストの光配向後の固定化を行い、偏光顕微鏡観察や吸収スペクトル、発光スペクトルなどの分光学的手法により、有機半導体の光配向性の度合いを直接的に観察し、光配向性に優れる有機半導体の探索を多角的に行う。また、今年度開発した,ポンプ-プローブ光学系による時間分解測定を行い,有機半導体の励起状態における電子状態の変化および液晶場との相互作用を詳細に検討する。さらに, Z-scan法や過渡回折格子法を用いて非線形光学効果あるいは微小屈折率変化の測定を行い,有機半導体の非線形光学効果に基づく配向応答性が液晶の配向変化の誘起に、どのような影響を及ぼすか調べる。実験的な手法だけでなく、分子軌道計算による有機半導体の分子構造計算も行い、光配向性の有機半導体に共通する特徴を明確化し、光配向特性と分子構造との相関関係について検討する。
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Causes of Carryover |
高価な有機半導体であるオリゴチオフェン誘導体がサンプル供与されたこと、および、評価に用いるアルゴンイオンレーザーの消耗の度合いが予想以上に低く消耗品などの交換の必要性がなかったことから物品費が抑えられ、旅費に関しては、学内予算により支出したため使用せずに済んだ。また、評価系にかかる時間を短縮できたため人件費・謝金の支出の必要がなくなり、未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度も昨年度同様、研究遂行に必須のレーザーの状態を観察し、状態により新規購入し、レンズ,ミラー,プリズム,偏光子,光量計,移動ステージ、冷却・加熱ステージなどの関連物品も併せて購入する。また,サンプル調製に必要な試薬,ガラス基板,スペーサー、デバイス作製にかかる膜厚計、水槽振動子、電極、また、分子計算ソフトなども購入する。さらに,これまでと同様に,展示会,シンポジウム,学会などにおける発表,情報収集,および論文投稿を計画している。
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Research Products
(7 results)