2017 Fiscal Year Research-status Report
ナノチップカロリメトリによる高分子ナノ材料のガラス転移機構の解明
Project/Area Number |
16K05907
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
佐々木 隆 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (50242582)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
入江 聡 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (90313733)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ガラス転移 / ダイナミックス / 高分子ナノシェル |
Outline of Annual Research Achievements |
粒径分布の小さいシリカ微粒子をコアとして、ポリスチレン(PS)、およびポリメタクリル酸メチル(PMMA)のナノシェルの合成を行った。さまざまな合成条件を検討した結果、PMMAについてはきわめて均一な100 nm以下の膜厚を有するナノシェルを得ることができた。DSCにより熱分析を行ったところ、バルクよりも高いガラス転移温度Tgが観測された。これはコアシェル界面での相互作用を反映したものと考えられる。 スピンコート法で作成した高分子超薄膜のガラス転移ダイナミックスをチップカロリメトリにより調べた。その結果、PSについては協同運動領域(CRR)サイズの温度依存性が膜厚依存性をもつことが明らかになった。また、新しい計測器の導入により、チップカロリメトリの測定技術を向上させることができた。 高分子界面のダイナミックスを評価する別の手法として、金属原子の二次元拡散法、および接触角法について実験を行ったところ、いずれの手法でも表面/界面のガラス転移を明確にとらえることができた。また、ポリL乳酸について非溶媒中への沈殿形成過程で起こる迅速な結晶化においても、高分子界面のダイナミックスが大きな役割を演じることが明らかになった。 CRRサイズの温度依存性を予測するための新しいモデルとして、surface controlled CRR(SCC)モデルを考案した。このモデルをこれまでに得られたバルク試料のデータに適用したところ、多くの高分子においてCRRが球形よりも高い比表面積を有する形状を取ることがわかった。このモデルによりフラジリティとTgにおける協同運動性との相関が生じるメカニズムを説明できることを示した。さらに、SCCモデルを超薄膜やナノカプセルのチップカロリメトリのデータに適用して、そのメカニズムを解析できる目途が立った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、多数の種類の高分子についてナノカプセルを合成する予定であったが、均一なシェル層を得ることが予想外に困難であり、今のところはまだ2種類の試料にとどまっている。一方で、ガラス転移ダイナミックスについての新しいモデル(surface controlled CRRモデル)を提案することができた。このモデルにより今後ナノシェルや超薄膜について、ガラス転移メカニズムを解明できる可能性が出てきた点は予想以上の進展といえる。以上を総合すると、進捗状況はほぼ順調であると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
PMMAについて膜厚の均一なナノシェルを得ることができたので、今後はPMMAを含めたメタクリル酸エステル系高分子について、重点的に膜厚の制御された多数の試料を合成する。これらについて、協同運動性(動的特性長)の温度依存性とフラジリティについてのデータをチップカロリメトリにより収集する。これらのデータについてその膜厚依存性を慎重に検討する。超薄膜については、より広範囲の高分子についてチップカロリメトリの実験を行い、ガラス転移パラメタの膜厚依存性をしらべ、ナノシェルと比較検討する。 高分子表面/界面のガラス転移ダイナミックスへの効果については、前年度に検討した2つの手法、すなわち金属原子の二次元拡散法、および接触角法についてさらにデータの補完を行う。これをもとに、上記のチップカロリメトリのデータとあわせて界面効果の役割を明らかにする。さらに、補足的な実験としてチップカロリメトリによる高分子超薄膜の結晶化速度の評価を通じて、界面のダイナミックスの特性評価を行い、上記とあわせて界面効果の検討を行う。 前年度に構築したSCCモデルをナノ材料に適用するためのモデルのアレンジを行い、上記の実験データに適用して解析する。さらに、これまでのさまざまな超薄膜の文献データの解析も試みる。以上の解析結果を総合して、ナノシェルや超薄膜におけるガラス転移ダイナミックスの特徴を明らかにし、その普遍的な挙動の傾向を抽出することで、ガラス転移機構の解明を目指す。
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Research Products
(6 results)