2016 Fiscal Year Research-status Report
形状材料としてキチンナノ繊維メッシュを活用した医用接着・治癒剤の開発
Project/Area Number |
16K05915
|
Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
斎本 博之 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20186977)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | キチン / キトサン / ナノファイバー / 生体接着剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
意義、重要性、解決方法 我々の生活において、不本意な外傷や外科手術等に遭遇する可能性は、誰にでもあり得る。従来、外科臨床分野では、傷口や切開部の接合、シーリングの方法として縫合がなされてきたが、縫合には時間と熟練技術を要することや、縫合できない臓器が有る等の問題があった。また、別法として知られている「血液製剤」を用いた生体接着剤には、ウィルス感染の問題があった。 これらの問題を解決するための研究開発が求められており、本研究では以下の方法により、安全かつ有用な手法の開発を目指した。 1.生体適合性天然高分子材料であるキチン、キトサンを素材として利用することにより、ウィルス感染の危険性がない安全な材料の創出を試みる。2.これまでに、キチン、キトサン素材に重合性官能基を導入することにより、接着性能を付与できることを見出していることから、今回、シート状のキチン質と組み合わせることにより、単なる接着性材料の段階から、様々な形状、面積に対応可能な生体接着材料が期待できる。3.このシート状のキチン質材料の調製には、これまでに蓄積したキチン質の利用技術を応用する。以上の技術の複合化により、様々な外傷や外科手術等におけるシーリングや接着に役立つ手法の開発をめざす。 具体的な内容と成果 1.これまでの知見を利用して、水溶性キチン誘導体に重合性官能基を導入し、接着性材料を調製した。2.一定の面積をカバーできるキチン質ナノファイバーシートを作成した。3.上記の1と2を組み合わせて接着性シートを作成し、皮膚モデルのコラーゲン膜を利用して、接着機能試験を行った。研究開始以前に予想しなかったコラーゲン膜と接着性シートとの界面剥離の問題が生じたものの、予めシート作成法を複数用意していたため、解決への道が開け、現在、一層の性能アップを計画している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の初年度においては、これまでに開発した重合性キチン誘導体を用いることにより、安全性の高い生体接着材料の開発を目指す途上で、単に接着させるのではなく、一定面積をカバーできる機能や、一定の形状に対応可能な利便性をもつ材料の開発を試みるための、基礎データを得ることを目指した。その過程で、研究開始以前に予想しなかったコラーゲン膜(生体モデル)と接着性シートとの界面剥離の問題が生じた。しかし、キチンナノファイバー懸濁液からシートを調製する方法として、1.吸引ろ過法及び、2.キャスト法の二つの手法を考慮していたため、方法1のシートでは従来の接着性データに及ばなかったものの、方法2のシートでは、従来の接着性データに匹敵する接着力を保持することを確認できた。即ち、従来の接着機能の上に、「一定面積をカバーできる機能や、一定の形状に対応可能な利便性」をも期待できる材料であることを確認できたので、「おおむね順調に進展している」と判断した。以上のような初年度の成果は、方法2によるシート作成時に、さらに改良を試みることで、より一層の機能の向上への道が開ける可能性がある。従って、次年度においては、本複合材料の各種機能の総合力の観点からも、一層の進展が期待できるものと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度において、安全性の高いキチン質を利用した重合性キチン誘導体とキチンナノファイバーシートとを複合化させた生体接着材料の開発の妥当性を確認できたので、次年度には、本複合材料の柔軟性や伸び率などの物性を一層改善することを検討する。これは、接着対象の皮膚、血管、臓器など、それぞれで要求される物性値を考慮して勧める予定である。 さらに、コラーゲンモデルではなく、当初計画していた生体への接着試験についても、本学獣医学科の協力の下で着手したい。その試験結果を共同で分析することで、本研究の複合材料の調製にフィードバックできると考えている。 もし、時間的に余裕があれば、キチンナノファイバーシートの空孔の割合についても、機能性を左右するファクターとして検討に加えることも視野にいれて、研究を進めたい。
|
Causes of Carryover |
当初は、重合性キチンナノファイバーと複合化させるシート状材料を、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、表面キトサン化ナノファイバー等、種々のナノファイバーを用いて検討する計画であったが、最初に試みたキチンナノファイバー由来のシートと重合性キチン誘導体との複合材料において、生体モデルとして使用しているコラーゲンフィルムへの接着試験の途上で、二つの材料の界面で剥離が生じるという、予期せぬトラブルがあった。結局のところ、シートの作成方法を工夫することで、複合化しない場合の接着性能に匹敵する複合材料の開発を達成した。しかし、本年度においては、キチンナノファイバー由来のシートを用いた検討で終了し、「キトサンナノファイバー、表面キトサン化ナノファイバー等を素材とするシートとの複合化は次年度以降に持ち越したため、次年度使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
初年度に、期待した成果が得られた「キチンナノファイバー由来のシートと重合性キチン誘導体との複合材料」について、その知見を発展させるため、繰越分を利用して、シート作成時における改質剤の検討を試み、複合材料全体としての柔軟性等の向上等を検討する。もし、期待通りに複合材料全体としての物性が改善されるならば、より優れた生体接着及びシーリング材料が得られると期待できる。
|
Research Products
(8 results)