2016 Fiscal Year Research-status Report
フレスコ画技法から学ぶ焼かない透明釉薬の開発とその形成機構の解明
Project/Area Number |
16K05932
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
橋本 忍 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10242900)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | セラミックス / フレスコ画 / 炭酸カルシウム / 水酸化カルシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
一般的に市販されているフレスコ画画材一式を購入した。水酸化カルシウムを主成分とする出発原料粉末に水を混ぜてペースト状に調製し、基材の陶板の上にそれを塗り、乾く前にそのペースト上に黄土色の単色で絵を描いた。6か月室温で保持した(経過した)現在においても、表面状態は描いた当初のままであり、目視で観察される炭酸化に伴う色成分を覆うような大きな組織変化は起こっていない。 短時間で彩色した色成分を炭酸カルシウムの透明保護膜(釉薬とみなせる)で覆うフレスコ画の完成のために、彩色の基材(画板)となる水酸化カルシウム板の作製を、当該研究室で開発し、既に論文として発表したウォームプレス(WP)という方法で作製した。まだ得られた水酸化カルシウム板には彩色を施さず、ウォームプレスによって作製された水酸化カルシウム板自身の空気中における炭酸化挙動について調べた。ウォームプレスという熱と圧力を同時に印加して作製された水酸化カルシウム板の表面の炭酸化速度は、室温で加圧のみで成形された水酸化カルシウム板よりも炭酸化のスピードが速いことが明らかとなった。 ウォームプレスにより作製された緻密な水酸化カルシウム板は、その後水を溶媒とする絵具の彩色過程において濡れ性が悪く、彩色を施すことが極めて難しいことが分かった。そのため彩色はウォームプレス処理前に施す必要がある。これらの実験の結果から、短時間フレスコ画の完成においては、水酸化カルシウム板への彩色条件および本ウォームプレス条件、加えてその後の炭酸化処理方法の重要性を再認識した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年7月‐9月に名古屋市美術館で開催されたポンペイの壁画展(フレスコ画展)に参加し、2000年前に描かれた世界遺産のフレスコ画を観察した。斜めから蛍光灯の反射を交えて観察すると、ところどころ部分的にではあるがうっすらと光沢があることが分かった。これが天然の炭酸カルシウムによる皮膜の形成であると推察された。彩色顔料(絵具)をうまく炭酸カルシウムで被覆できれば、数千年の歴史が証明する安定した絵画、彩色技術とすることができると考えられる。 同時に子供フレスコ画教室の作品が展示されていたが、我々がフレスコ画画材一式として購入して作製した絵とほとんど変わらなかった。その表面は彩色した色成分は彩色直後のままで、炭酸化反応による色成分の変化は起こっていないようであった。自然の炭酸化は数十年、百年の単位が必要であることが実感された。 今回の研究テーマは、そのフレスコ画を短時間で作製することである。達成のため水酸化カルシウムのウォームプレス(WP)による基材(絵を描くタイル基材)の作製を行った。条件を250℃, 240MPa, 保持時間を60分とした場合、水酸化カルシウムは高緻密化し、その後の彩色において絵具がはじかれ、絵が描けないことが判明した。そこでウォームプレス処理する前に彩色する必要性のあることが判明した。 現在まで、ウォームプレス処理を施した水酸化カルシウムはその後の炭酸化が促進されることが分かってきた。炭酸カルシウムと水酸化カルシウムの平衡関係にキネティックの要因が影響を及ぼしていることが推察される。よって今後は、水酸化カルシウム板の作製のためのWP条件、彩色条件さらにこれからの炭酸化条件(導入超臨界二酸化炭素環境作製装置)の条件を明らかにしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
短時間で彩色した絵具(顔料)成分を炭酸カルシウム皮膜(天然釉薬ともみなせる)で覆ったフレスコ画を完成させることを目標に、出発の水酸化カルシウム板への彩色を、ウォームプレス装置の本荷重印加および同時加熱処理の前に行う方法を採用する。まず初めに非常にマイルドな環境、すなわち温度も250℃より低温で、例えば100℃程度とか、加圧力も数MPa程度で処理して密度を高めない比較的多孔質な水酸化カルシウム板を作製し、それへの絵具の彩色を試みる。その後に本WP処理する2段階ステップワイズ法とする。彩色前の水酸化カルシウム板の密度と、その後の本WP処理による色素成分の固化体中への固定の因果関係はこれまで全く明らかにされていないため、学術的にも興味深い。 次に、その後の炭酸化処理の方法について検討する。2-3気圧の炭酸ガス雰囲気環境を形成できる装置は研究室の既設装置として存在するが、本プロジェクトで導入を新規に計画した超臨界二酸化炭素生成装置での炭酸化処理を中心に行う。空気中での水酸化カルシウムの炭酸化には、水へのカルシウム成分と炭酸ガス成分の溶解とその後の化合析出という機構が考えられ、水が重要な働きをしている可能性が高い。そのため超臨界二酸化炭素環境を炭酸化の加速環境としても、水の共存は炭酸化に重要な役割を果たすと考えられるので、炭酸化処理前彩色試料表面を霧吹きなどで水蒸気吸着処理を施すなど、工夫をした実験を行いたい。 これらフレスコ画の短時間完成は、炭酸カルシウム皮膜を無焼成釉薬に例えることができ、フレスコ画だけでない湯呑など生活雑器に適用できる可能性を秘めている。今年度は彩色前の水酸化カルシウム板の密度と、その後の本WP処理による色素の固定の因果関係を学会発表にまでもっていきたい。
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