2016 Fiscal Year Research-status Report
電気化学的に積層化したナノ触媒担持グラフェンアノードを用いる高効率酸素発生反応
Project/Area Number |
16K05938
|
Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
中山 雅晴 山口大学, 創成科学研究科, 教授 (70274181)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 層状二酸化マンガン / OER / グラフェン / コバルト / ターフェル勾配 / 電気化学析出 |
Outline of Annual Research Achievements |
太陽光や風力発電をエネルギー源とした水の電気分解(2H2O → 2H2 + O2)はCO2の排出を伴わない理想的な水素製造プロセスだが,アノードでの酸素発生反応(Oxygen Evolution Reaction, OER)の過電圧が大きく,ボトルネックとなっている。太陽光や風力を効率良く化学燃料(H2)に転換するには,現在最も活性と言われている貴金属や貴金属酸化物(RuO2やIrO2)並みの過電圧(η=300 mV)でOERが進行する安価かつ堅牢な電極触媒の開発が必須である。 本申請課題は,層状二酸化マンガンのOERに対する触媒活性の向上を目ざす研究である。二酸化マンガンは4価のマンガンに由来する酸化触媒能を有するが,導電性が低いため,単体ではOER活性をほとんど示さない。そこで本研究では,1. 二酸化マンガンの析出段階に正に帯電させたグラフェンコロイドを共存させ,両者の交互積層構造を構築すること,2. 電析後の層状マンガン酸化物の層間に遷移金属イオンをイオン交換法により導入すること,によってOER活性の発現を試みた。生成した複合薄膜の構造はX線光電子分光法,X線回折法,TEM, SEMなど各種分光法を使って詳細に調べた。OERに対する触媒活性の評価はアルカリ水溶液中でのリニアスイープボルタンメトリーによる。すなわち,OER開始に要する過電圧,ターフェル勾配,OER電流密度を測定した。その結果,1. グラフェンをインターカレートした層状二酸化マンガン,2. コバルト,ニッケル,銅をインターカレートした層状二酸化マンガンにおいて,顕著なOER触媒活性の向上が観察された。さらに,どちらの場合も十分な繰返し性と優れた耐久性を備えていることが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
カチオン性ポリマーであるポリジアリルアンモニウム(PDDA+)をグラフェン(GR)と複合化し,カチオニックグラフェンとした。カチオニックグラフェン存在下,Mn2+イオンをアノード電解することでMnO2薄膜を作製した。この薄膜はPDDA-GRとMnO2の交互積層構造を有することがTEMを始めとする各種分光法によって証明された。次に,GR表面からPDDAを抽出し,Na+とイオン交換することで所望の複合膜を得た。この複合膜(GR/MnO2)をアルカリ水溶液中に浸漬し,電位を貴側にスイープすることで水の酸化反応に対する触媒活性を評価した。その結果,GR無しの場合に比べてはるかに大きな電流応答が観察された。具体的には,卑なOER開始過電圧,小さなターフェル勾配が得られた。以上の結果は国内外の学会で報告するとともに,学術論文として発表した。一方,層間に異種イオンをインターカレートしたMnO2薄膜のOER特性について検討を行った。特に,コバルト,ニッケル,銅イオンを使用した際のOER特性において顕著な改善が見られた。すなわち,グラフェンとともにこれらの遷移金属イオンを複合化したMnO2薄膜もまたOER反応に対して優れた触媒活性をもつと言える。グラフェンをインターカレートした層状マンガン酸化物に関しては当初計画通りの結果が得られたと言える。また,3D基体であるカーボンクロスの活性化法とその二酸化マンガン修飾法を詳細に検討し,それぞれのプロセスを確立した。さらに遷移金属イオンの効果も見られたことは予想しておらず,当初計画以上の結果が得られたと理解している。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究計画ではターフェル勾配やターンオーバー頻度など触媒の本質的な性質について考察してきた。その結果,グラフェンや遷移金属酸化物の複合化が二酸化マンガンのOER活性を著しく向上させることが分かった。しかし,実用や一般化を考えた場合,電極面積あたりのOER電流(=電流密度)をできる限り大きくする必要がある。すなわち,ターフェル勾配やターンオーバー数は触媒の量に依存しないパラメーターであるのに対し,電流密度は触媒量に依存するので,触媒量をできる限り増やす必要がある。 今後の研究課題として,1. 単位面積あたりの触媒量を大きくすることが挙げられる。その方策として,3D基体を使用する。3D電極としてカーボンクロスを考えている。この場合,電析のメリット(複雑な基体に均一な薄膜を形成することができる)が活かせる。しかしながら,MnO2は本質的に導電性が低いため,電析量などで膜厚を最適化する必要がある。また,1で最適化したサンプルを使って,2. 耐久性の向上と3. 中性水溶液中でのOER試験を行う予定である。耐久性試験では電位サイクルを数百回行ったときの繰返し性,また定電流(10mA/cm2程度)を印加し続けたときの電極電位の上昇について調べる。
|
Causes of Carryover |
平成28年度において,追加の成果発表のために20万円の前倒し請求を行った。実際の旅費がこれよりも低く抑えられたため(航空チケット,宿泊数による),その差額分,ならびに実際の購入価格が低かった消耗品の寄与により,70,281円が余った。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
カーボンクロス等の電極材料,ならびに遷移金属塩試薬等,消耗品の購入のために使用する。
|
Research Products
(11 results)