2016 Fiscal Year Research-status Report
揮発性有機化合物の高感度検出用固体インピーダンス型ガスセンサの構築
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16K05939
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
清水 陽一 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (20192114)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ガスセンサ / 固体電解質 / 酸化物 / インピーダンス / レセプタ / トランスデューサ |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,大気環境分野においては,VOC,窒素酸化物などの排ガスが,光化学スモッグや直接健康被害を起こさせる原因として深刻な問題となっている。現在これらに対処すべく,様々な材料,デバイス,システムなどが検討されている。これらは,単に大気汚染物質の計測だけでなく,工場内での環境計測用,居住空間の衛生管理用として,社会的にも必要かつ緊急性の高い研究課題である。また近年,VOCガスセンサのヘルスケア分野への応用が期待されている。例えば,呼気中のアセトンやトルエン濃度を検出できれば,糖尿病や肺がんの早期発見が可能になるなど,その応用は広い。 申請者らは,酸化物レセプタ層と固体電解質トランスデューサ層を組み合わせた新しいセンサ素子を考案した。本センサは,トランスデューサ層の交流インピーダンス変化を検知信号とするため,従来の電気化学デバイスでは全く利用することが出来なかった絶縁体などの多彩な材料をレセプタに応用可能という,画期的な特徴を有している。 本研究では、レセプタ材料に,従来は全く使用できなかった絶縁体である:ゼオライト系の多孔質体を検討した。さらに,トランスデューサ材料には,高いイオン導電性と安定性を有するNa5RESi4O12 (RE:希土類、Na+導電体),Li1+xAxTi2-x(PO4)3 (A:Al, Ga: Li+導電体)等の高イオン固体電解質,およびその薄膜の合成、および、酸化物レセプタの交流インピーダンス応答について検討したところ、(La/Ce)2CuO4系レセプタが、高いCO応答感度を示すこと、また、ハイドロソーダライトとNaイオン導電体を組み合わせたセンサが、高いNH3応答を示すことを見出した。さらに、湿式プロセスにより緻密なNaイオン導電体薄膜の合成法を開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
酸化物レセプタ層と固体電解質トランスデューサ層を組み合わせた新しいセンサ素子について、まず、レセプタ相に層状ペロブスカイト型酸化物や、ハイドロソーダライト等の新しいセラミックス材料が応用可能なことを見出した。層状ペロブスカイト型酸化物は、高分子前駆体法により、ハイドロソーダライトは、水熱合成法によりそれぞれほぼ単相の試料合成法を構築した。また、本研究により層状ペロブスカイト型酸化物レセプタ材料が、中高温度域で高い感度を有するこれまでにない新規COセンサ材料となることを見出した。 本センサの原理上、レセプタには絶縁性材料が応用可能であるが、ハイドロソーダライトを用いるとNOx応答が可能なこと、またアンモニア応答の可能性があることを見出しつつある。 トランスデューサ材料には、従来のYSZに加えて、リチウムイオン導電体やナトリウムイオン導電体について検討を加えた。リチウムイオン導電体については、従来のバルク試料に加えて、湿式スピンコート法においてゾルのpHや組成をコントロールすることによりクラックフリーのリチウムイオン導電性固体電解質薄膜の湿式合成法を構築した。薄膜の導電率は、バルクより1桁ほど導電性が低いもののセンサとして十分な導電性を有しているため、今度薄膜型センサデバイスへの応用展開を予定している。さらに、ナトリウムイオン導電体については、イオン導電性が高く化学的安定性に優れているが、単相の合成が難解であったNa-Re-Si-O系(Re:希土類)についてまずその合成に取り組んだ。従来の湿式法から、さらにマイクロ波を湿式合成処理過程に導入することにより、高純度なNa-Re-Si-O系固体電解質を合成できることを見出した。現在、Na-Re-Si-O系固体電解質をトランスデューサに組み込んだセンサデバイスを検討しているが従来のYSZ系よりも高い性能を得られつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
固体電解質トランスデューサには、合成法を確立したNa-Re-Si-O系固体電解質等のバルクを組み込んだセンサデバイスを検討する。特にトランスデューサの種類や導電種(リチウムイオン、ナトリウムイオン、酸化物イオン等)の影響についても調査し、応答機構の検討を加える。 さらに、トランスデューサについては、すでに合成に成功しているリチウムイオン導電性固体電解質薄膜、さらに、Na-Re-Si-O系固体電解質の厚膜化・薄膜化も検討する。これらは、湿式スピンコート法,電気泳動電着法等で合成・成型する。 レセプタ材料には、まず、層状ペロブスカイト型酸化物、ゼオライト、ハイドロソーダライト等のセラミックス系を検討するが、有機金属錯体などの新規レセプタ材料も検討を加える。センサは最終的には、薄膜系トランスデューサと,種々の薄膜型レセプタを組み合せた,新規センサデバイスを構築する。そのためにレセプタ層とトランスデューサ層との結合法に,電気泳動法,電析法等の電気化学プロセスを導入する。これら素子の積層化・マイクロ化・傾斜化によりセンサの構造制御を検討する。得られた各セラミック薄膜,繊維材料を組み合わせて(薄膜/薄膜積層)型,(薄膜/繊維)型の新しいタイプの全固体型VOCガスセンサデバイスへ展開する。
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Causes of Carryover |
余剰が出た理由は、センサ材料合成が想定以上に順調に進んだため試薬類が予定より必要でなかったことと、被検ガスの混合にパーミエーターの利用が予定以上にうまくいき、混合ガス類の物品費が当初予定よりも必要でなかったため。 さらに、学生の研究協力者が当初予定よりも1名多く、かつ順調に研究が進んだため、当初予定の酸化物レセプタ合成補助者のための謝金が不要であったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越金は、本研究計画で最も難航が予想される固体電解質ナノ合成のための装置とその資材等の整備費の拡張、および試薬類の選択の幅を広げるために有効に活用したいと考えている。
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Research Products
(14 results)