2017 Fiscal Year Research-status Report
ホウ酸塩フラックスを用いた重金属の低温における還元分離・成型技術の開発
Project/Area Number |
16K05946
|
Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
露本 伊佐男 金沢工業大学, バイオ・化学部, 教授 (60282571)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ホウ酸ナトリウム / アルミノシリケート / シリコン / フラックス / モンモリロナイト |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は昨年度までに,アルミノシリケート系材料にホウ酸ナトリウムをフラックスとして混合し,950℃の水素中で還元焼成することで,アルミノシリケート内に微量に含まれる鉄が還元析出することを発見している。今年度は,粘土鉱物であるモンモリロナイトにホウ酸ナトリウムをフラックスとして混合し,950℃の水素中で還元焼成を行ったところ,単体のケイ素が鉄とともに析出することを発見した。ケイ素の析出は粉末X線回折により確認した。熱力学計算によると,石英(二酸化ケイ素)から水素中で単体のケイ素を析出させるためには約4300℃前後の高温が必要であるが,モンモリロナイトにフラックスを使用することで950℃の水素中での還元析出が可能になったことになる。 ケイ素,および鉄はガラス状のホウ酸ナトリウム上に析出し,金属光沢のある銀白色を呈し,導電性を示す。この成果は粘土鉱物などケイ素を含む複合酸化物から1000℃以下におけるケイ素の還元析出が確認された初めての例であり,1000℃以下でケイ素を精製する工業的方法として実用化できる可能性がある。 メカニズムについては今のところ,モンモリロナイトからのケイ素の析出は,二酸化ケイ素等の還元とは異なる反応経路によるものと考えている。モンモリロナイトは,SiO2層がAl2O3層を挟み込んだ2:1構造を取っており,950℃の水素中で,2層あるSiO2層のうち片方だけがシリコンとなって還元析出し,もう片方のSiO2層は1:1構造のカオリナイト系化合物に変化するというメカニズムを提案している。2層あるSiO2層のうち1層が還元析出しやすくなっているという考え方である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は当初,粘土鉱物などにホウ酸ナトリウムをフラックスとして加え,水素中で還元することで,微量に固溶している金属を析出させ分離することを目的としていた。その研究過程でモンモリロナイトを試料として用い,微量に含まれる金属の還元析出を検討したところ,1%程度含まれる鉄の還元析出とともに,ケイ素が還元析出することを見出した。これは当初,予測していなかった発見であり,熱力学に基づくこれまでの予測を覆すものといえる。この還元析出現象を熱力学的に説明するため,モンモリロナイトの結晶構造(SiO2層とAl2O3層が2:1構造)に着目し,2層あるSiO2層のうち1層が還元されて,ケイ素となって析出し,残りの1層はAl2O3層とともにカオリナイト系化合物(SiO2層とAl2O3層が1:1構造)に変化するという新しいモデルを提案した。 また,フラックスとして使用するホウ酸ナトリウムの組成についても最適化を完了した。試料の種類によらず,同じ組成のホウ酸ナトリウムがフラックスとしての性能が高いことがわかっている。ナトリウムとホウ素のモル比(Na/B比)が1~3の場合に性能がよく,2~3の場合がさらに好適であることがわかっている。 以上,想定外の発見をしたので,当初の計画以上に進展していると言えるが,当初の目的に含まれていた焼却灰中の微量有価金属の分離,回収技術については未実施であるため,おおむね順調に進展しているという評価にした。
|
Strategy for Future Research Activity |
モンモリロナイトだけでなく,他の様々な結晶構造と組成をもつ粘土鉱物で同様のケイ素の還元析出現象が見られるか,確認のための実験を精力的に進める予定である。これにより,2:1構造で2層あるSiO2層のうち,1層が還元されやすいという仮説を検証する。また,ケイ素が析出した後のモンモリロナイトの結晶構造を調べ,析出反応時の化学量論関係を確認したい。ケイ素の工業的製法としての応用が可能かどうかを併せて検証する。これまでケイ素の析出は粉末X線回折により確認していたが,ラマン分光法を併用し,結晶性のあるケイ素だけでなく,非晶質のケイ素も検出できるようにする予定である。さらに,第一原理計算により,950℃の水素雰囲気中でモンモリロナイトがカオリナイト系化合物に変化する際に,SiO2層からのケイ素析出が熱力学的に可能かどうか確認する予定である。 また,有価重金属を微量に含む焼却灰からの有価重金属の回収技術に関する研究を並行して進める予定である。都市鉱山からのレアメタル回収については従来技術では酸化物ではなく合金からの回収が中心であり,酸化物からの回収技術は報告されていない。我々の技術は,アルミノシリケート等のマトリックス中に酸化物として微量に含まれる重金属を還元して分離することが可能なので,従来不可能であった酸化されやすい卑金属の回収も可能になると期待できる。
|
Research Products
(9 results)