2017 Fiscal Year Research-status Report
低加速電子線が誘起するナノ物質の局所構造変化の実験的検証
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16K05948
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
佐藤 雄太 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (90392620)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 透過電子顕微鏡 / ナノ材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、透過電子顕微鏡の新しい領域である低加速電圧において、電子線照射によってナノ物質に生じる局所的な構造変化のメカニズムの解明を目的として、ナノチューブや金属ナノ粒子などを対象に原子レベル構造観察を実施するものである。具体的には、カーボンや窒化ホウ素等のナノチューブへの欠陥導入の過程における、電子線の加速電圧やナノチューブ一本ずつの微細な構造の差異による影響を明らかにする。またグラフェンの原子空孔の拡大や、金属ナノ粒子の結晶化や表面・界面での原子の移動など、低加速電子線の照射下で生じる現象を直接捉え、加速電圧や照射量、試料温度、試料周囲の微量ガス等の要因について多角的検証を進めると同時に、より幅広いナノ物質を対象に低加速電子顕微鏡の応用を進めるための指針を得ることを目指している。 平成29年度は、ナノカーボンに担持した金属等のナノクラスターに着目して低加速電子顕微鏡観察を実施した。まず、グラフェンに担持した金および銀のナノクラスターに対してSTEM観察を行い、各ナノクラスターの分散状態や電子線照射下での挙動を検討した。とくに金のナノクラスターに関しては、4-ニトロフェノールから4-アミノフェノールへの還元反応において、触媒機能を有することが確認された。 またカーボンナノチューブ(CNT)に内包されたメタロセン分子に着目し、これを前駆体とするCNT成長メカニズムの検討を行った。CNT内部の空間で、ニッケロセンまたはコバルトセンから新たなCNTが成長する過程において、カイラル指数(n,m)で表示されるCNTの構造の選択性を検証した。この成長過程で生じるニッケルまたはコバルトのナノクラスターに対しても観察を行い、とくにニッケルのナノクラスターは電子線照射に対して顕著な構造変化を生じることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述の通り本研究課題では、ナノカーボンに担持した各種の金属ナノクラスター試料に対する低加速電子顕微鏡観察において、電子線照射下におけるこれらの物質の挙動に関する成果が着実に得られつつあり、それらの一部はすでに論文として公開されている。また、これらの観察に必要な装置や試薬等の物品に関しても、本課題の予算によっておおむね計画通り導入され、研究の遂行のために活用されている。以上の理由により、本研究課題は現在までおおむね順調に進展しているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も引き続き、低加速電子線照射によってナノ物質に生じる局所的な構造変化のメカニズムの解明を目的として、ナノカーボンや金属ナノクラスターなどを対象に原子レベル構造観察を実施する。具体的には、たとえば異種原子や有機分子を担持するナノカーボンの電子顕微鏡観察を行い、これらのゲスト化学種の動的挙動や構造に対する低加速電子線の照射の影響について検討を進める予定である。
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Causes of Carryover |
本年度の研究が比較的順調に推移した結果、電顕観察用消耗品等の消費量が当初計画の見込みを下回ったため、次年度使用額が生じた。 平成30年度の物品費に組み入れ、本課題の進捗に応じて試薬や消耗品の追加購入などに充当する計画である。
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Research Products
(4 results)