2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K05974
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
吉原 正一郎 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (00311001)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 腐食 / マグネシウム合金 / シミュレーション / 腐食挙動 / 腐食速度制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
【1. 結晶粒微細化よる腐食挙動および機械的性質への影響調査】ECAP加工による結晶粒の微細化を施したAZ31Bマグネシウム合金の機械的性質および腐食挙動を調査するために,SEM,TEMによる微細組織観察,室温引張試験および0.9 mass% NaCl水溶液中における浸漬試験を行った。本調査では,ECAP加工が集合組織の形成に起因した大幅な延性向上に有効であることを確認し,微細化に伴って増加した結晶粒界は耐食性低下の要因となることを明らかにした。 【2. 構造解析および流体解析を用いたAZ31Bマグネシウム合金の腐食因子】(1) 構造解析を用いて,バルーンの拡張動作によりステントの支柱に加えられるひずみおよび残留応力を評価した。また,実際にシミュレーションモデルと同形状のAZ31Bマグネシウム合金細管ステントを製作し,バルーンによる拡張および浸漬試験を実施した。両実験の比較より,腐食によるステントの破断箇所はシミュレーション結果における相当ひずみの集中箇所とよく一致することを確認した。(2)流体解析を用いて,流れ場においてステントが受ける流体運動の影響を評価した。また,血液の拍動を再現可能な可変流量送液装置を作成し,マグネシウム合金ステントの腐食試験を実施した。実験より,ステントの流入部,流出部において腐食に差が生じることを明らかにした。 【3. 模擬血液等によるマグネシウム合金の流動腐食試験】上述の可変流量送液装置を用いた流動条件下におけるAZ31B板・管材の腐食試験を実施した。留置される試料の形状および送液条件の変化が及ぼす影響に焦点を当て,調査を行った結果,流れ場における材料の腐食挙動は表面性状および流速に強い影響を受けた。さらに,層流,乱流および境界層分離といった流れの特性変化によって受ける効果は微小であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【1. 異形状試験片に対する構造および流体シミュレーション解析】今年度は解析ツールとして,ANSYS社の汎用熱流体解析ソフトウェアANSYS Fluentおよび構造・伝熱の有限要素法マルチフィジックス解析ソフトウェアANSYS Mechanicalを新たに導入した。なお,両ソフトウェアは連成解析が可能であり,ステントの留置された血管内環境をより高度に再現可能であることから採用した。同解析ソフトを用いて平成28年度の流体解析に引き続き,ステント形状においてステントに作用する応力やひずみの状態を検証した。また,ステントの構造解析も実施し,ステントの支柱に加えられるひずみおよび残留応力を評価した。次年度より,各解析の更なる高精度化を図るとともに,連成解析についても検討・実施していく予定である。このように,本年度は今後の解析に向けた足掛かりとなる研究が進行したので進捗は概ね順調であると判断する。 【2. マグネシウムおよびマグネシウム合金の腐食試験】AZ31Bマグネシウム合金管材に微細レーザー加工を施すことで,ステント形状の試験片を作成することに成功した。同試験片を用いて,ステント留置術におけるバルーンカテーテルによるステントの拡張動作を模擬し,拡張されたステントの腐食挙動について調査を行った。上述のシミュレーション解析および腐食試験結果より,ステントの拡張動作によって支柱のリンク部に集中して残存した相当ひずみが耐食性を低下させる要因となることを明らかにした。研究実施計画の段階では板材・円管材に対する腐食試験を実施する予定であったが,これらに加えて,より実際の使用状況に近づけた「ステント形状」の試験片を作成できたことは,進捗として大きな前進であると判断する。 【3. 国内外の会議への参加について】国内の会議として軽金属学会への論文投稿を1件,学会発表を2件行い,本年度の成果を公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
【1.マグネシウム合金の腐食挙動と疲労強度の関係性の調査】ステントを対象とする場合、材料には欠陥からの収縮と拡張を交互に受けることが想定される。そのため、マグネシウム合金の腐食速度、耐食性を制御するだけではなく、疲労強度の評価を行うことも重要であり、腐食挙動との関係性を調査する必要性を示唆した。本年度で実施した、ECAP加工による結晶粒の微細化を施したAZ31Bマグネシウム合金の疲労強度を調査し、腐食挙動と疲労試験の関係性を明らかにすることで、よりマグネシウム合金を用いたステントの実用化に近づけるための研究を行っていく。 【2.構造・流体連成解析を用いたステント留置シミュレーション】今回得られた研究成果を受けて,シミュレーション技術の活用によって腐食因子となり得るひずみや残留応力,壁面せん断応力等の定量的な評価が可能であることが見出された。そのため,上記の腐食因子を低減させると同時に,半径方向の高剛性および長軸方向の柔軟性を持ち合わせるステントデザインの提案が新たな課題として位置付けられる。本年度では実施できなかった流体数値解析および構造解析の連成を行い,ヒトの血管内といった実際の使用環境に近い条件下における力学的特性の変化と腐食挙動を明らかにしていく。また,COMSOL社のマルチフィジックスシミュレーションソフトウェアCOMSOL Multiphysicsを新たに導入し,腐食環境を考慮した上での,マグネシウム合金表面の電流密度やマグネシウム合金の時間経過に伴う変形等のミュレーションを行う。 【3.研究実績の公表】以上の実績を,国内外で開催される学会および学術誌(塑性加工学会,日本機械学会,軽金属学会等)への論文投稿を通して公表することを目指す。
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