2016 Fiscal Year Research-status Report
材料科学とミクロ計算力学によるナノ伸線加工技術の開発
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16K05994
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
齋藤 賢一 関西大学, システム理工学部, 教授 (90294032)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 伸線加工 / 分子動力学 / 計算力学 / 鉄鋼材料 / 摩擦・潤滑 / マルチスケール解析 / 水素脆化 / 塑性加工 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、金属材料の塑性加工法の一つである伸線(引抜き)加工に関して、ミクロスケールからの新しい技術展開となる「ナノ伸線加工」の可能性を追求する。(1)原子レベルからの微視組織制御、(2)ダイスとの潤滑性能向上、(3)破壊メカニズムなどの伸線加工・伸線材における諸問題を材料科学・計算力学アプローチによってミクロスケール側から理論的に取り扱う。主なる方法論は分子動力学(MD)シミュレーションおよびその関連技術であり、原子一つ一つの運動を直接計算して現象を理解していくという特色がある。 本年度は以下の成果を得た。まず、上記(1)の研究項目について、フェライトとセメンタイトの2相からなるパーライト鋼モデルを用いてとくに界面近傍での炭素拡散挙動をMDシミュレーションで明らかにした(H29.5発表予定)。次に、上記(2)の項目について、ダイス表面の剛性を変えたMD計算モデルおよびナノテクスチャリング(表面に規則的な幾何形状を加え、潤滑を良好にする技術)を用いたMD計算モデルについて、それぞれ解析し、ナノスケールにおける伸線ダイスと線材間の摩擦軽減の機構を検討した(H28.9学会発表、H29.5発表予定)。さらに、上記の(3)の項目について、実際に鋼線で問題となる水素脆化現象を対象にし、伸線加工時の曲げ変形に近い応力勾配を有する応力分布における水素原子の拡散挙動のMDモデルの構築および解析を遂行し、応力勾配量と拡散係数量の相関を新たに見出した(H28.5,7,9学会発表、H29.3に論文投稿)。 一方、従来からある有限要素法や粒子法といった連続体力学理論に基づく数値解析法を援用的かつ包括的に使用して解析サイズのスケールアップを目指しており、今年度はMDのマクロバージョンとも呼ばれるPeridynamics理論の導入を試み、今後の運用の見通しを得た(H29.3学会発表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画時の目標であった、原子レベルでの伸線加工における現象解明が順調に進んでいる。とくに、パーライト鋼モデルのような実際に近い計算モデルの構築が成功し、今後解析精度を上げていく方向性および見通しが得られている。また、伸線ダイスと線材の界面における潤滑機構に関しても、トライボロジー分野で発展中のナノテクスチャリングという新概念を試みる段階に至っており、本研究テーマの枠内での新規性(発見)も得られてくる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果を踏まえ、とくに分子動力学(MD)解析の高精度化と解析スケールのアップを行っていく必要がある。前者に関しては、実際に産業上の伸線加工で多く対象となっている材料であるパーライト鋼を構成する鉄と炭素の間のポテンシャル関数の特性を再度検討し、第1原理計算などのより精密な理論を援用しつつ実際に近い物性を再現するMDモデルを構築していく。後者については、現在試行中であるMDのマクロスケール版とも呼ばれるPeridynamics理論に基づく粒子法解析を援用して進めていく。現在Peridynamicsシミュレーションは他材料の異なる変形モードにおいて使えている状況にあるので、とくに塑性変形を重要視した伸線加工モデルの構築を進める。さらに、MDとPeridynamicsのマルチスケール的な融合のための理論の構築と実装(融合の理論は米国研究者などではすでに試みられている部分が存在する)を進めるべく、情報収集と必要な解析に要する運用スキルを増進する。
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Causes of Carryover |
予定していた研究発表を次年度に変更したため、旅費を繰り越すことになった。また、物品費にて予定の仕様のもの(計算サーバーの本体)が予定額より低く購入できたため、本年度は研究が遂行できている。しかし、予定との差額については計算頻度が上がる次年度に周辺機器(記憶装置など)を増強して研究を行うときに必要になり、その方が効率が良いと考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に繰り越した研究発表に対する旅費として利用する。また、本年度設置した計算サーバーの周辺機器の整備のための物品購入を行う。
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