2017 Fiscal Year Research-status Report
サブナノメートルの浮上すきまにおけるスライダの振動と液膜潤滑機構の理論的解明
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16K06039
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
小野 京右 東京工業大学, その他部局等, 名誉教授 (40152524)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ナノトライボロジー / 表面分子間力理論 / ヘッドスライダの接触振動 / submonolayer拡散理論 / 接触記録条件 / 拡散係数 / 弾性メニスカス接触理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
磁気ディスクのヘッド・ディスクインタフェースにおけるサブナノメートル領域の諸現象を解明する研究を交付申請書の計画に基づき実施し以下の成果を得た. 1. Diamond-Like-Carbon (DLC),固定潤滑膜,流動潤滑膜の3層からなる磁気ディスク面の突起接触における表面力理論を確立し,実際のヘッド・ディスク面の表面粗さパラメータ値を用いて実用磁気ディスクにおけるTFCヘッドスライダの内周,中周,外周における接触時の振動特性の相違を解明できることを示した.特に作用力が不安定域をもつ場合,接触信号が消失するloss of contact が生じる領域の後半は完全浮上状態になるが,前半は軽い接触状態であるにもかかわらず接触信号が現れないことから,この条件下で接触記録ができる可能性があることを示した.これは極めて重要な発見で,実用的な価値が高い.更に上記の表面力理論を用いて,磁気ディスク面の表面力に及ぼす潤滑膜厚さとボンド率の影響を調べ,ボンド率0.85のとき表面力特性は潤滑膜厚さの変動の影響を受けなくなることを明らかにした.またこのとき膜厚さが0.6 nm近傍で凝着力が最小になるので,今後高密度化のために目指すべき潤滑膜厚さは0.6 nmであることを提案した. 2.メニスカス弾性接触理論をすでに発表しているが,接触分離状態に近くなると,数値解の解析精度が低下する恐れがあった.そこで接触半径とメニスカス半径を基準とする相対座標系を用いて解く手法を開発した.今後この手法でメニスカス弾性接触状態を詳しく研究し,更に動的メニスカス形成特性の解析や弾性流体潤滑理論への発展を探求する. 3.単分子膜以下の稀薄液膜の拡散流動に関する理論をH28年度に開発し発表したが,上記の研究に精力をかけたためその論文化が遅れた.稀薄液膜の流動理論の論文化をH30年度前半の課題とする.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記述した29年度の実施計画(1)表面間引力評価とスライダ振動解析については計画以上に進展している.即ち,① 突起特性を用いたDLC膜上の固定成分と流動成分をもつ面の表面力特性を解析し,現在の単分子膜の固定率0.85が最適でしかも今後0.6nm程度まで薄くできることを明らかにした(トライボロジスト論文).②またHe封入の実機におけるTFCスライダのタッチダウン特性のディスク半径位置による変化をも評価できることを示すことができた(日本機械学会論文,Microsystem Technologies論文).③更にスライダのタッチダウン後の状態には,AE接触信号が生じない接触状態が存在し接触記録の可能性を始めて明らかにした.④更に開発した表面力理論を用いて,2000年代の前半に問題となったピコスライダの静的・動的不安定現象をも調べそれらも矛盾なく理解できることが分かった(IIP2018講演会発表). (2) Submonolayer希薄液膜の拡散・流動方程式の普遍化については,比較すべき実験データがその後ほとんど発表されていないので論文化を保留していたが,拡散係数に関するWaltmanの実験値によく一致しているので,現在機械学会論文としてまとめつつある.また2018年8月に表面力に関するsurface forces国際会議があるので,それを目指して英論文化も目指す. (3) 邦論文化したsubnanometer以下の液膜のメニスカス弾性接触解析に関する内容を英論文化すべく検討したが,これまでの数値計算法を接触・分離境界状態まで厳密化するため接触半径の相対座標で解く方法を新たに開発した.この内容は2018年5月のトライボロジー会議で発表予定である.今後磁気ディスク関連分野だけでなく,Capillary condensation をも共通に論ずる理論としてまとめることを考える.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ヘッドスライダの強い接触時の振動特性の解明:実験で見られるスライダがディスク面に接触したときの強い振動は自励振動と予想され,2自由度モデルによる解析が必要であるが,実際上はこの状態は使用されないので,スライダの強い接触時の振動についてはこれ以上細かい解析は当面中止する. (2)Submonolayer希薄液膜の拡散・流動方程式の普遍化:まず28年度に行った1次元基礎方程式の分離圧の厳密化と最近の実験データとの比較評価に関する論文を30年度の前半にまとめる.次に近接するヘッド面のvdW力によるピックアップ現象を解析する.またヘッド面との接触によるせん断効果を基礎式に組み込むモデルを解明する.なお,最近の熱補助記録に関する液膜流動に関する表面張力の温度特性効果,蒸発と吸着効果,液膜不安定等,は実際の熱補助記録技術が実用化されておらず実際の問題が不明なので次の研究計画課題とする. (3)メニスカス弾性接触理論の厳密化が可能になったので,周辺の稀薄液膜による流動膜と結合させ,メニスカス形成速度に関する理論を開発する.これと上記(2)項の研究を結合することにより本研究の最終目的である稀薄液膜の潤滑方程式の開発を目指す. なお,本研究の最終目的である希薄液膜の拡散流動方程式を弾性メニスカス接触理論と結合し,更にメニスカス境界潤滑方程式へ普遍化する研究は30年度の最大課題とする.その基礎勉強のためトライボロジー学会の境界潤滑研究会と表面力研究会(平成29年度から発足)に参加した.
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Causes of Carryover |
平成29年度は国際会議が中国で開催されたため旅費が予定より少なくなり20万円の残余ができた.平成30年度の予算は平成29年実施と同じ120万円である.米国とロシアでの国際会議への参加を予定しており,また邦論文と英論文をそれぞれ2編投稿する予定なのでぎりぎりの予算だと思う.
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Research Products
(10 results)