2017 Fiscal Year Research-status Report
ハイブリッドポリマー軸受の摩擦化学反応による自己潤滑膜の生成メカニズムの解明
Project/Area Number |
16K06042
|
Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
古池 仁暢 九州産業大学, 理工学部, 技能員 (40603329)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木田 勝之 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 教授 (00271031)
溝部 浩志郎 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 助教 (70727718)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 樹脂軸受 / 転がり疲労 / 機械要素 / PEEK構造・物性 / 自己潤滑膜 / 摩擦化学 / 高機能樹脂 / 長寿命化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではPEEK/PTFE複合材などのプラスチック材料で構成されるベアリングの自己潤滑膜生成の機構を明らかにすることを目的としている。腐食や錆びを促進させる蒸気ガス環境や特殊薬液中の製造ライン、クリーン工程や非磁性が要求される搬送機器等では潤滑油や金属製摺動部品を用いることが困難である。このような特殊環境下で使用する機械要素部品の寿命リスクの低減を目指し、深溝玉軸受を模擬したハイブリッドポリマーベアリング試験体を全機械加工により製作して転がり疲労テストを実施した。 ベアリング試験体の材料にはPEEK/PTFE複合材のほかPPS/PTFE複合材およびセラミック球を用いた。さらに効率的評価を進めるために点接触モデルとして、PEEKシャフト-セラミック球を検討した。ハイブリッドベアリング試験体の強度(回転数100万回の繰返し圧縮荷重に耐える限界ラジアル荷重)・寿命及び摩耗の状態・運転温度等のデータを計測した。さらにテスト後のPEEK 樹脂軌道輪から表層部を切り出し、精密研磨により分析観察用薄片を作製した。PEEK 樹脂軌道輪とセラミック球の界面に生じた自己潤滑膜生成状況をX線分析やフーリエ変換赤外分光分析により分析し、軌道輪の損傷状態および表面性状をレーザ顕微鏡により計測、また軌道輪表層部および表層直下の断面観察と内部せん断応力分布の解析を実施した。 内輪軌道輪とセラミック球の間でヘルツ接触すると仮定した場合、PPS樹脂においても初期の自己潤滑膜生成は差動すべりが起こり易い接触楕円縁近傍で発生することが明らかとなった。また軌道輪曲率形状が膜の生成や耐荷重性能に影響を与えることが明らかとなった。膜は繰返し数に伴って軌道輪全周にわたって徐々に成長し、膜が軌道面に繰返し再生することで耐焼付き性や摺動性も向上し、強度(限界ラジアル荷重)向上、疲労寿命延び、摩耗量の低減が出来た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主に以下の3項目に関して研究を推進した。 1、<ハイブリッドポリマーベアリングの試作品設計および製作> ラジアル型およびシャフト型の深溝玉軸受を模擬したハイブリッドベアリング試作品を全機械加工にて製作した。 ベアリングの軌道輪形状の検討および転がり疲労試験機による繰返し荷重下での耐久テストを通じて、ハイブリッドポリマーベアリングの強度、寿命および磨耗損失量等の評価を行なった(継続実施中)。評価時間が長期化したことから実験条件を絞り効率的に実施し、再計画に沿って進めている状況である。 2、<自己潤滑膜および表面損傷状況の観察> ベアリング軌道輪の摩擦面に於ける自己潤滑膜の生成および損傷については継続調査中である。テスト後のPEEK 樹脂軌道輪の表層部および断面部を切り出し、精密研磨機により分析観察用薄片を作製した。自己潤滑膜および表面損傷状態をレーザ顕微鏡や電子顕微鏡を用いて観察した。レーザ顕微鏡による軌道面観察データ分析から自己潤滑膜の初期生成箇所の特定まで達成した。また並行して、潤滑材を使用した場合の内輪のはく離損傷に関して内部断面観察を行い損傷の起点およびせん断き裂進展の状況を調査した。さらに内部せん断き裂の進展状況を新たに考案した断面観察法により詳細に調査を行い、内部応力解析を行なった。 3、<自己潤滑膜の分析> テスト後の軌道輪表面に生成した自己潤滑膜についてFTIR-ATR分析およびX線分析(EPMA)を実施した。一部の試験体で繰り返しの機械的応力により接触面から表層下300μm深さでの分子結合状態の変化が確認された。信頼性評価の観点から今後データ数を増やして分析を進める。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策として、次の3項目を軸に推進する予定である。 1、<軌道面観察および内部観察> ハイブリッドポリマーベアリングを「全機械加工」により作製し、特殊環境下を模擬した環境での摩擦・転動疲労試験を実施する。ベアリングのテスト後品および中断品のカット観察を行い、分析機器を併用して組織や劣化・修復の程度を調べる。 2,<X線装置等を用いた成分分析> X線装置およびFT‐IR等の分析機器を用いて、定量化したベアリング内輪軌道輪データを基に自己潤滑膜の組織の分析を行なう。潤滑膜の成分や官能基の変化を調べ、軌道面の損傷や劣化および膜の生成が、疲労テスト影響によりどのように進んでいるのかを明らかにする。 3,<軌道断面部の加工および研磨によるき裂進展> 軸受の軌道輪直下で内部き裂が円弧を描いて表面に向かってカーブするメカニズムにつながる観察データの蓄積を進める。せん断応力の作用により、ある長さまでは内部き裂が平行に伸びていくことは明らかにされているが、その後、引張り応力がどう作用しているのか明らかにするためレーザ顕微鏡などを用いてマクロ破断面観察データ取得を進める。また、内部応力解析を行い、材料強度の観点からき裂進展を詳細に調べる。 研究を遂行する上での課題として、現行試験片では特殊環境試験の条件を長時間維持させ評価することが難しい状況である。評価を簡便に行うため、試験体を樹脂シャフトとボールの点接触モデルを用いた試験システムを導入する。損傷プロセスおよび自己潤滑膜の生成プロセスを引き続き詳細に調べる。
|
Causes of Carryover |
(当該助成金が生じた状況)国際学会開催地が国内で、海外渡航費など学会参加旅費が未使用となったため残額が生じた。 (使用計画)国際学会発表のための旅費、研究打ち合わせ参加のための旅費、計測機器類の消耗品、試験片作製、論文投稿料に使用する予定である。
|
Research Products
(5 results)