2016 Fiscal Year Research-status Report
気泡核群のサイズ分布形成過程に対する大規模MD解析
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16K06085
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
津田 伸一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (00466244)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | キャビテーション / 気泡核 / 時間スケーリング / 蒸発/凝縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,ポンプや水車に代表される水力機械等でしばしば発生して問題となる,液体から気体への相変化を伴う流動現象(キャビテーション)について,その初期過程を大きく左右する非常に小さな気泡群(気泡核群)のサイズ分布形成プロセス,および本プロセスに反映されている物理法則を,分子スケールの数値シミュレーションならびに理論解析によって詳細に明らかにすることである. 初年度でもある本年度は,分子スケールにおける気泡核群の形成プロセスを分子動力学シミュレーションにより模擬し,気泡核群の代表長さ(平均気泡核径)が示す特徴的な時間スケーリング則に対して計算領域のサイズがもたらす影響を評価した.類似の先行研究と同様に,オストワルド成長と呼ばれる競合現象に類似した気泡核群の成長過程が観察されたが,計算領域の長さが約30ナノメートル程度以上ある場合には,時間スケーリング則に対する計算サイズの影響は非常に小さく,平均気泡核径は時間の約0.5乗に従う変化を示すことが確認された.また,この時間スケーリング則をもたらすメカニズムを詳細に検討するため,観察された各気泡核径の時間発展が,既往の物理モデルとどの程度整合するのかを詳細に調べた.その結果,気泡核表面の蒸発/凝縮が本現象を律速すると仮定したマクロなモデルが,本分子シミュレーションで模擬された気泡核径の時間変化を比較的よく再現することが確認された.このことから,計算領域(空間領域)の大きさによらず,気泡核の形成プロセスは気泡核表面の蒸発/凝縮に支配されている可能性が高いことが示唆された.一方,この時間スケーリング則をもたらす別のメカニズムが存在する可能性も否定できていないため,この点の検討が次年度の一課題である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は,不純物を含まない単成分系液体中における気泡核群のサイズ分布形成に及ぼす時間スケーリング則について,そのスケーリング則に反映される物理法則を,計算領域の依存性にも注意しながら解明することであった.研究実績の概要にも示している通り,この点についてはおおむね達成できたと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要の末尾にも示した通り,同一の時間スケーリング則を導く他のメカニズムが存在する可能性もあるため,まずこの点を注意深く検討する.特に,既往の先行研究では検討されていない,気泡核間の相互作用が気泡核のダイナミクスに与える影響をモデル化し,本モデルから得られる時間スケーリング則と分子シミュレーションの結果を比較/検討する予定である.そのうえで,当初より平成29年度以降に予定していた,不純物を含んだ液体中における気泡核の形成過程の分子動力学シミュレーションを実施し,不純物が時間スケーリング則にもたらす影響と,その主要な物理因子の抽出をおこなう.
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Causes of Carryover |
前年度に未使用額が生じた大きな理由としては,当初,本研究で必要とする大規模計算のために購入予定であった物品(高速計算機)に関して,本課題とも密接に関連する他の研究プロジェクトにおいて大規模計算をおこなう環境が構築できたことが挙げられる.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費については,上記未使用額と合算して,中規模の分子動力学シミュレーション実施に最適な計算機を今年度早期に購入する.また,前年度の研究成果を公表するため,旅費については国際会議発表のために,その他については論文投稿費としてそれぞれ使用する予定である.
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