2016 Fiscal Year Research-status Report
ディスクブレーキのディスク面内固有振動に起因する鳴き振動現象の解明
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16K06160
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
大浦 靖典 滋賀県立大学, 工学部, 准教授 (60512770)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 昂 滋賀県立大学, 工学部, 助教 (60759273)
栗田 裕 滋賀県立大学, 工学部, 教授 (70275171)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自励振動 / 固有振動 / 面内鳴き |
Outline of Annual Research Achievements |
回転する円板(ディスク)に摩擦材(パッド)を押し付けて制動するディスクブレーキは、制動時に鳴きと呼ばれる甲高い騒音を発生することがある。ディスクブレーキの鳴きの研究は、これまでディスクが面外方向に大きく振動する「面外鳴き」が主流であった。面外鳴きの発生メカニズムが解明され、パッドの面取りや材料特性の調整などの対策が提案され、面外鳴きは抑制されつつある。その結果、面外鳴きへの対策では抑制されない「面内鳴き」が問題になっている。 本研究では、ディスクが面内方向に変形することで生じる「面内鳴き」の発生メカニズムを解明し、効果的な鳴き対策の指針を示すことを目的とする。「面内鳴き」は、「騒音発生時にディスクが面内方向に振動している」、「騒音の周波数が、ディスクの面内固有振動に一致している」という特徴をもつ。しかし、ディスクが面内方向に伸縮するように振動しても、面外方向に振動した場合に比べて、空気に振動が伝わらないので、騒音にならないのではないかという疑問がある。 平成28年度は、面内鳴きの発生に寄与する要素を特定することで、構造を簡略化しつつ定常的な面内鳴き振動を発生できる鳴き試験機の開発を目指した。過去に行った面外鳴きの研究より、鳴きの発生にはディスクの固有振動が大きく寄与することが明らかとなっている。そこで、自動車実機のディスクは、面内方向に大きく振動しつつ面外方向にも振動する固有振動をもつのではないかと考えた。鳴きの発生にもっとも影響が大きいと考えられるディスクとパッドは実機と同じとし、それらの支持構造は簡易化する。面外鳴きに比べて発生が安定しない面内鳴きを安定して計測することができれば、鳴き発生メカニズムの検証が容易となり、新たな「面内鳴き」対策の提案に有用である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
鳴き音の発生源であり、ブレーキの最も大きな構成要素であるディスクの振動特性は、鳴き発生メカニズムの解明に重要である。ディスクを打撃加振試験した結果、面内方向の振動の振幅に対して、面外方向にも10分の1程度の振幅で振動する固有振動モードが確認できた。これは、パッドとの摩擦接触面にあたる円板をハットと呼ばれる薄肉円筒部で支えるというブレーキディスクの構造に起因するものである。面外方向ないしは面内方向の1自由度で振動を評価されることが多かったディスクの固有振動に関する新たな知見が得られた。 次に、一定速度で回転させた実機ディスクの片側から実機パッドを押し付ける構造の鳴き試験機を作成し、パッドの支持方法や押し付け状態を調整して鳴きを発生させた。ディスクのパッド接触部付近における鳴き振動を測定した結果、面内方向の振動の振幅に対して、面外方向にも10分の1程度の振幅で振動していた。さらに、鳴き振動の測定結果に基づき、パッドをディスク面外方向の1自由度振動系、ディスクをパッドに対して斜め方向(面外方向+面内方向)に振動する1自由度振動系で表した解析モデルを作成した。鳴き試験機のディスクやパッドの振動特性を用いて解析したところ、自励振動(鳴き)が発生する解析結果が得られた。このことから、研究の着想は正しく、構想通りに研究を続けていくことができると思われる。 しかしながら、鳴き試験機において、パッドの支持方法と押し付け力の条件を変えていないにもかかわらず、面内鳴きの発生が安定しない状態となっている。これは摩擦接触面の面あたりやパッドの支持状態が十分に管理できていないためと考えられる。このため、解析モデルの妥当性の検証については十分にできていない。 以上の点を考えあわせると、進捗状況は「おおむね順調に進展している。」といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
構造を単純化した鳴き試験機のディスクの固有振動やパッドの支持剛性、減衰などの設計パラメータを管理することで安定した面内鳴きを発生できる環境を整える。この状態で、各設計パラメータを変更した際に鳴きがどのように変化するかを調べ,面内鳴き対策に関する知見を収集する。実験と解析の結果を比較することで鳴きの発生に寄与度が大きい要素を特定し、効果的な鳴き対策を提案する。 現行の鳴き試験機は、想定していたよりも面内鳴きの発生が安定していない。これは、ブレーキパッドが、固定されておらず、トルク受け部で支持するのみとなっていることが原因と考えられる。実機と同様の支持状態を再現できるように設計したため、実機と同様に鳴きが安定しない状況である。これらの知見を活かし、鳴き試験機を改善する。ブレーキパッドから試験片を切り出し、板ばね等で固定することで、支持剛性や摩擦接触面あたりの安定化を狙う。同時に当初予定していた設計パラメータの管理も可能となるように設計する。 当初予定通り、平成29年度内に効果的な鳴き対策方針の提案を目指す。
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Causes of Carryover |
鳴き試験機を試作した段階で面内鳴きが発生した。このため、当初予定していたパッド支持方法や押しつけ力の与え方について設計を改良した鳴き試験機の本製作を行わず、鳴き振動の測定を優先した。本製作のために確保していた予算を使用しなかったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の計画にある実機ブレーキパッドを用いた鳴き試験機における面内鳴きの発生は想定していたよりも安定していない。原因を検討するためにFEM解析を実施した結果、ブレーキパッドの固有振動モードは、支持部の境界条件の与え方により複雑に変化することが明らかとなった。これは実験ごとにパッドの支持状況が変化し鳴きが安定しないことに対応すると考えられる。面内鳴きを安定して発生させ、鳴き対策の検討を容易とするために、実機ブレーキパッドから試験片を切り出し、板ばねで支持することで支持状況を管理できる試験機を設計中である。当初、平成29年度に予定していた試験機の改善よりも費用が多くかかるため、次年度使用額をあわせて使用する計画である。
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Research Products
(2 results)