2018 Fiscal Year Research-status Report
導電性高分子を用いたソフトアクチュエータの高機能化
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16K06280
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
金藤 敬一 大阪工業大学, 工学部, 教授 (70124766)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宇戸 禎仁 大阪工業大学, 工学部, 教授 (20298798)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ソフトアクチュエータ / 導電性高分子 / 電解伸縮 / 人工筋肉 / 伸縮率 / 収縮力 / バイオ燃料電池 / 抗力 |
Outline of Annual Research Achievements |
導電性高分子は共役π電子の酸化・還元によって電子物性が顕著に変化する。その一例として、酸化によって電気伝導度が絶縁体から金属状態に転移する。酸化はπ電子が抜き取られ、その数に相当するマイナスイオン(アニオン)が導電性高分子に挿入される。その結果導電性高分子は、注入されたアニオンに相当する体積が増加する。また、還元によって可逆的に元の大きさに戻る。この現象を電気化学的変形(電解伸縮)と呼び、人工筋肉あるいはソフトアクチュエータとして、研究開発が行われている。 注入されたイオンの数は、電気化学反応の電流値を時間積分することによって求められる電荷量から評価できるので、伸縮率からイオンの大きさを見積もることができる。このようにして求めたイオンの体積は、水和(イオンが水分子を抱き込み)しており、結晶イオン半径より大きいことが判った。特にカチオンでは、結晶イオン半径の小さいLi,Naなどの方か、水和イオン半径が大きいことが判った。 ソフトアクチュエータの還元による収縮力の起源について、導電性高分子ポリピロールを用いて詳細に調べた。その結果、収縮力は基本的には導電性高分子の弾性力に対応することが判った。しかし、課題として弾性力はフックの法則(ヤング率)で決まるがヤング率は酸化によって変化するので、収縮力のメカニズムは複雑であることが判った。ポリピロールをTBABF4およびTBAClO4の安息香酸メチルの電解液を用いて電解重合し、電気化学的伸縮をNaCl, NaBr, NaNO3, NaBF4, NaClO4などの水溶液中で測定した。その結果、引張荷重を印加してNaCl, NaBr電解液を用いて電解伸縮させると、荷重が増加しても伸縮率はほぼ一定を示すことが、世界で初めてが判った。そのメカニズムについて現在解明している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、導電性高分子の電解伸縮における伸縮率、収縮力および繰り返し寿命の向上などの高機能化である。これまで、伸縮率および収縮力を決める要因について電解重合によって得られるポリピロールを用いて、先行事例に拘ることなく、新規に研究を進めて来た。その結果、伸縮率はイオンの大きさで決まるが、その大きさは結晶イオン半径ではなく、水和イオン半径によることが、定量的な解析で明らかとなった。この結果は、これまで想像の域であったが、実測から確認できた点は、学術的に貴重な成果である。しかし、伸縮率の格段の増加は達成できなかった。 更に、収縮力の起源について、ポリピロールの電解重合に用いる電解液とアクチュエータの伸縮に用いる電解液を複数種用いて、伸縮率の引張負荷依存性を調べた。その結果、合成に用いた負イオンより小さい負イオンを用いて伸縮を行うと、伸縮率は小さくなるが、張力負荷に依存しない伸縮率を示す興味深い結果を得た。この結果は、導電性高分子のソフトアクチュエータは、負荷が大きく変化しても収縮率が変わらない重要な特性で、実用上極めて重要な発見である。収縮力に関しては、その抗力は約30 MPa以上で、骨格筋肉の0.4 MPaに比べて約100倍に及ぶことが明らかとなった。この点において、今回の結果は予想以上の成果である。 一方、大きい荷重を架けることによって導電性高分子が引き延ばされる、いわゆるクリーピングについて、定量的な評価ができた。このクリーピングの大きさは導電性高分子の電解重合に用いる電解液、およびアクチュエータに用いる電解液の種類にほぼ無関係で、負荷荷重にほぼ比例して増加することが明らかとなった。この結果は、これまで知られていない新しい知見である。 以上の結果から総合的に、本年度の研究成果はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
導電性高分子ソフトアクチュエータの高機能化の課題の一つは高速応答である。その課題を解決するために、例えば、ポリマーの多孔質化を行いイオンの拡散係数を大きくする工夫をする。 これまで導電性高分子によるソフトアクチュエータの駆動は、電解液中の導電性高分子に電圧を印加して伸縮させてきた。一方、生体の筋肉はグルコースを酸化させることによって得られる化学エネルギーを直接運動エネルギーに変換することによって伸縮させている。その化学プロセスは極めて複雑であるが、導電性高分子を酸化・還元するにはバイオ燃料電池の反応を利用することができる。これまで、平行してアスコルビン酸やグルコース、アルコールおよび尿素を燃料とする燃料電池の基礎的な知見を得てきた。 燃料電池の燃料極は還元作用、酸素極は酸化作用であることから、導電性高分子のアクチュエータを燃料極と酸素極の間に挟む3セル構造のアクチュエータを作製する。それぞれの層の間は、選択性イオン透過高分子膜を用い、燃料極の触媒と集電極、酸素極の触媒と集電極からなるアノードおよびカソード電極、および、導電性高分子に繋がる集電極の3電極構造とする。アノード電極と導電性高分子電極を接続することによって、燃料極との反応が起こり、導電性高分子は還元され収縮する。一方、カソード電極と導電性高分子電極を接続することにより、酸素極と反応により酸化され伸張する。即ち、導電性高分子電極をアノード電極あるいはカソード電極にスイッチすることにより、伸縮運動をさせる。バイオ燃料としては、血液中に存在するグルコース、膀胱に集められる尿素などが対象となり、酸素源には肺胞あるいは動脈中の血中酸素が対象となる。このようなバイオ燃料電池の酸化・還元機能を直接ソフトアクチュエータの駆動に用いる試みは世界初で、体内での人工筋肉、人工臓器の駆動などの先駆け研究で、その成果が期待される。
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Causes of Carryover |
科研費の使用に当たっては、研究成果を最優先としながらも、必要最小限とし節約をしたため剰余金が出た。この剰余金は次年度へ繰り越し、消耗品および旅費の一部として使用する。
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Research Products
(16 results)